巴ひかる 医師 (ともえひかる)

東京女子医科大学東医療センター

東京都荒川区西尾久2-1-10

  • 骨盤底機能再建診療部
  • 教授、診療部長

泌尿器科 婦人科

専門

男女の頻尿・尿失禁など排尿機能・骨盤底機能障害、膀胱瘤や子宮脱などの骨盤臓器脱、間質性膀胱炎など

巴ひかる

巴ひかる医師は、TVT手術、TOT手術共に豊富な経験を有す女性尿失禁治療の名手。特にTOT手術を日本に広めたことでも知られる。腹圧性尿失禁の治療には、手術、薬物療法、骨盤底筋訓練等、患者のニーズに合わせた最良の治療法を提供している。TVT手術もTOT手術もほぼ局所麻酔で行い、日本では聞き慣れないウロダイナミックスタディー検査も実施している。そのほか、骨盤臓器脱の手術療法、難治性の間質性膀胱炎の診断・治療や泌尿器科悪性腫瘍の早期発見など、幅広い領域に積極的に取り組んでいる。

診療内容

「尿失禁は、成人女性の3人に一人は経験しているのではないか」と巴医師は言う。
その内訳は、約70%が腹圧性尿失禁、15%が切迫性尿失禁で、両者を合併する混合性尿失禁も多い。その他には横溢性尿失禁、機能性尿失禁などがある。
 腹圧性尿失禁は、せき、くしゃみ、笑う、重い物を持ち上げるなど、おなかに力が入ると起こる尿もれ。妊娠や出産、肥満、便秘や加齢で尿道や膀胱などの臓器を支える筋肉や靱帯(じんたい)で形成される骨盤底が、緩んだり傷ついたりすることが原因で起きる。
 一方で突然激しい尿意が起こり、トイレまで我慢できずにもらしてしまうのは切迫性尿失禁。こちらは過活動膀胱がおもな原因で、その原因には脳梗塞や脳出血の後遺症や、脊髄疾患があるが、男性では前立腺肥大症、女性では骨盤臓器脱による下部尿路閉塞や骨盤底の障害、加齢も原因となるほか、はっきりしない場合も多い。

 「腹圧性尿失禁の治療には、骨盤底筋訓練や減量などの行動療法、薬物療法、手術療法があります。ただし体操や薬物療法は、それだけで尿もれが確実に治るものではありません。ですが、ご本人が希望するのであれば、取り組むのもよいと思います。尿もれは自己申告の病気です。どれくらいまで治したいか、どう治療したいか等のニーズは人それぞれ。違いを受け入れ、尊重して治療するのが私のポリシーです」と巴医師。
 TVT手術やTOT手術の名手として知られているが、インタビューしていて何よりも伝わってくるのは、必要な検査等の手順を着実に遂行する、丁寧な診療ぶりだ。
 「検査には、咳などをして尿もれを調べる「ストレステスト」、膀胱や尿道の動きを調べるQ-tipテスト、尿もれの量を調べるパッドテスト、膀胱や尿道の形態をみる「鎖膀胱造影」、排尿の様子や勢い、尿道の閉じる圧力等を調べる「ウロダイナミックスタディー」などがありますが、私が特に重視しているのは「ウロダイナミックスタディー」です。この検査によってTVTとTOT、どちらの手術が向いているかということが分かります。60分のパッドテストでもれなかった場合は、自宅でパート2をしていただくこともあります。その場合は検査の主旨をよく理解していただくことが重要です。特に高齢の方は、強く咳をするのが苦手ですからね。強く咳をしたらもれちゃうから恥ずかしいって。その治療に来ているわけですから。自宅での検査が可能かどうかはしっかりと見極めて、無理な場合は何とか病院で受けていただきます。専門の看護師が一緒に行うので確実です」(巴医師)
 ちなみにTVT手術は、下腹部の恥骨上左右2カ所と腟を1cmほど切開してメッシュ状のテープを通し、このテープで尿道を支えることでぐらつきを抑え、尿をもれにくくする。ごくまれに腸を傷つけるなど重大な合併症が起こるリスクがある。
 一方、TOT手術は、左右の太ももの付け根と膣を切開してテープを通すことで、こうしたTVTのリスクを取り除くために開発された手術なので非常に安全。どちらの手術も尿道括約筋の閉じる力が低下している場合には、尿もれの症状が残る可能性があるが、TOT手術でよりその傾向が強い。このことを巴医師は、自分の経験から感じとり、術式の選択に活かしてきた。
「近年、世界中から同様の報告があがってきています。しっかりした治療をしている医師はみんな、同じように思うんですね」(巴医師)
もう1点、巴医師がこだわっているのが、手術の際のテープの張り具合だ。きつく張れば、尿もれは確実になくせるが、反面、尿が出しにくくなる排尿困難のリスクが高まる。あくまでも「ちょうどいい張り具合」を追求するのが信条だ。
「尿もれが残らないようにと思うあまりテープ調節を強めのテンションにする医師もいますが、私は反対です。尿道に対してテープがきつすぎると、確かに尿もれは消失しますが、ふつうの排尿が出にくくなってしまいます。排尿困難も尿失禁もない、ちょうどよいフィッティングをめざして手術を行っています」(巴医師)
 膀胱瘤や子宮脱などの骨盤臓器脱も、TVM手術とLSC手術という最新の手術方法で治療を行う。
「TVM手術とは経腟的にメッシュを挿入し、下垂した臓器をハンモックのように支える手術で、LSC手術とは腹腔鏡下で下垂した臓器を仙骨の岬角に向けて吊り上げる手術です」(巴医師)
 下垂した臓器が自然に元の位置に戻ることはない。しかし手術で正常に近い位置に戻すことによって、陰部の異物感消失だけでなく、排尿困難や場合によっては頻尿も改善する。
「患者さんの年齢や既往歴、脱出臓器の種類や脱出の程度などによって、その人に合った術式を選んで手術を行います」(巴医師)

 特別な治療を行っているわけではないと強調する巴医師だが、その誠実な医療には高い信頼が寄せられており、外来には遠隔地からも、たくさんの患者が訪れている。

医師プロフィール

1983年3月 東京女子医科大学 医学部医学科卒業
1987年3月 東京女子医科大学大学院修了
1987年4月 同 腎臓外科助手
1991年6月 同 泌尿器科助手
1999年10月 同 附属第二病院(現 東京女子医科大学東医療センター)配転
2001年6月 東京女子医科大学東医療センター 泌尿器科講師
2011年1月 同 骨盤底機能再建診療部教授・診療部長, 泌尿器科教授 兼任

「女性泌尿器(尿失禁)」を専門とする医師