若倉雅登 医師 (わかくらまさと)

井上眼科病院

東京都千代田区神田駿河台4-3

  • 神経眼科、心療眼科
  • 名誉院長

眼科

専門

視神経や眼位、眼球運動の異常(視神経炎、レーベル病、甲状腺眼症など)、眼瞼けいれんや抑うつによる眼の異常、化学物質過敏症、片側顔面痙攣

若倉雅登

若倉雅登医師は、視覚情報を伝達する眼と脳の協力関係が壊れて起こる病気を扱う「神経眼科」の第一人者。特に眼瞼けいれん治療におけるスペシャリストであり、日本神経眼科学会の診療ガイドライン編纂にも加わる。「眼は身体と心のバロメーター」として患者の精神面に着目した診療を心がけ、日本ではまだ珍しい心療眼科の創設にも携わってきた。自著やマスメディアを通じて見落としがちな目の病気について解説する機会も多く、全国からセカンドオピニオンを求める患者が来院する。化学物質過敏症にも詳しい。

診療内容

40歳以上の女性に多い眼瞼けいれん。軽症のうちはドライアイや眼精疲労と誤診されやすく、診断がついた時にはすでに進行していることも少なくない。進行すると歩行中や運転中に不意の閉眼から事故を起こす恐れがあり、重症になると自力で開瞼できなくなるため早期の診断・治療が求められる。現在のところ詳しい原因は不明だが、眼輪筋(眼の周辺の筋肉)をコントロールする脳のスイッチ相当部分に何らかの不調が生じたために起こると言われる。「目から入った視覚情報は脳で認識され、眼と脳の協力関係のもとに物が見える訳ですが、その関係が壊れた状態を扱うのが神経眼科です。片側顔面けいれんのように、機械的に神経が圧迫されて起こる病気とは性質が異なるものです」と若倉医師は語る。
眼がショボショボして普通の電灯やテレビの光さえまぶしい、目薬を続けても効果がない、眼科、さらには精神科など病院を転々としても原因不明とされてしまう…若倉医師のもとにはこうした眼の悩みをもつ患者がセカンドオピニオンを求めて訪れる。中には、若倉医師の診察で初めて「眼瞼けいれん」と明確に診断された患者も多い。
若倉医師は神経眼科のスペシャリストとして、眼瞼けいれんの診断についてこう語る。「多くの医師は“けいれん=目の周辺がピクピクするもの”と誤解し、けいれんがあるかどうかで診断します。しかし軽症では外見上で判別しにくく、重症になってからけいれんが見られることが多いのです。不定愁訴で眼科を受診する人のうち、かなりの人が眼瞼けいれんを患っているのではないかと思います」。若倉医師によれば、眼瞼けいれんの診察は、白内障・緑内障などに比べるとかなり時間かかり、まずは患者の症状を「きく」ことが診療の大事なファクターであるという。
現状では眼瞼けいれんにおいて根治療法はないとされ、対症療法として「遮光メガネ」「クラッチメガネ」といった医療用レンスが用いられる。さらなる対症療法として、ボツリヌス製剤を注射して眼輪筋を弛緩させる方法が一般的である。ボツリヌス治療では注射の後3~4日で効果が表れはじめ、持続期間は約3か月である(対症療法であるため繰り返しの治療が必要)。笑顔が不自然になるといった一時的な副作用が見られることもあるが、治療を受けた患者のうち約7割は満足しているという。
ボツリヌス治療について若倉医師はこう語る。「私は眼瞼けいれんの治療にあたり、ボツリヌス治療が第一選択と考えています。ドライアイと誤診されるような軽症のケースにこそ効果的で、治癒へつながる場合もあるからです。しかし、実際には重症例に対してボツリヌス治療を適応するべき、という医師も多く見られます」。若倉医師によると、ボツリヌス治療の効果を高め、より長く持続させるためには薬物治療や手術治療も有益であるが、抗不安薬投与は避けるべきだという。「抗不安薬により眼瞼けいれんが誘発されたとする例があるからです。現代の日本では抗不安薬や睡眠導入剤を服用する人が増えており、これが眼瞼けいれんの発症原因となっている可能性も否めません」
また、若倉医師は地下鉄サリン事件被害者の検診を担当した実績を持つなど「化学物質過敏症」にも詳しい「サリンもそうですが、新築住宅でよく起こるシックハウス症候群のように、化学物質が影響する病気では、眼は症状が出現しやすい部位です。眼が非常に疲れた感じがして開けていられない、動く物を見ていられないなど、脳と眼の協力関係が壊れることで様々な症状が出てくるのです」
さらに、眼疾患治療のエキスパートであるだけでなく、神経・心身の全体的な状態からアプローチする「心療眼科医」としても広く知られている。患者の精神面も包括的に扱う「心療科」と「眼科」が融合した医療に対し、原因不明の不定愁訴に悩む多くの患者が信頼を寄せている。同院での心療内科の創設の経緯を若倉医師は次のように語る。「身体的・器質的な問題はなくても、ちょっとした目の違和感があるだけで日常生活に支障をきたす患者が多く見られます。実際にストレスなどの精神的問題が目に出ることがあり、メンタル面に考慮した対応で改善するケースもあります。眼は身体と心のバロメーターであり“健康は眼に聞け”と言うくらい、眼を見ればその人の体調や心理状態がわかります。病院は身体の異常だけ診る所ではなく、患者の精神的な部分も支援すべきとして開設したのが心療眼科なのです」
若倉医師によると、内科には心療内科があるが、どの科にも必要であるにもかかわらず、まだ“心療”と銘打った科は少ない。どの病院も臓器別に科が分かれ、眼は眼、肺は肺…とそれぞれ違う医師が診療している。「症状が多岐に渡る場合に対応できる医師は少ないものの、実はそういう病気が非常に多い。それがカバーされていないのが日本の医療の現実です。いや、日本だけでなく世界においても同じことが言えるでしょう。診断基準や治療法が確立してないから私の科では診療できないというのは、患者にとっては困ることです。ですから“まず受け入れて、一緒に悩んでいく”というのが私の考え方です」
ただし現在は心療眼科は全国でも珍しいため、遠方からわざわざ訪れる患者も少なくない。今後、若倉医師による指導の下、心療眼科の専門知識を備えた眼科医が育ち、同院に限らず日本の至る地域で心療眼科の体制が整うことが期待される。

医師プロフィール

1976年3月 北里大医学部 卒業
1980年3月 北里大学大学院医学研究科 博士課程修了
1982年 北里大眼科専任講師
1986年 グラスゴー大学シニア研究員
1988年 北里大眼科 専任講師
1991年 北里大医学部 助教授
1999年 医療法人社団済安堂井上眼科病院 副院長
2002年 医療法人社団済安堂井上眼科病院 院長
2012年4月 医療法人社団済安堂井上眼科病院 名誉院長、北里大学客員教授