熊田卓 医師 (くまだたかし)

大垣市民病院

岐阜県大垣市南頬町4-86

  • 消化器内科
  • 副院長
  • 部長

消化器科 内科

専門

ウイルス性肝炎の診断と治療、肝悪性腫瘍のIVR(血管内治療)治療、超音波診断

熊田卓

肝疾患、とくにウイルス性慢性肝炎についての専門医として名高い。肝細胞がんの治療では局所凝固法(LAT)であるラジオ波焼灼療法の名医。ラジオ波焼灼療法は肝切除に比べて侵襲が少なく患者に負担が少ないうえ、肝切除と遜色のない治療効果があるため、現在、局所凝固法の主流となっている。新しい超音波造影剤であるソナゾイドの保険適用により、より正確な腫瘍の位置の把握と確実な穿刺凝固が可能となり、さらに有効性が高まっている。
こうした局所凝固療法ばかりでなく、消化器がんの早期診断には欠くことのできない超音波診断についても研究を重ね「肝腫瘤の超音波診断基準」の基準改訂小委員会の委員長として4年の歳月をかけて同診断基準の改訂を行っている。さらに最近では日本超音波医学会、日本消化器がん検診学会、日本に人間ドック学会の3学会共通の「腹部超音波検診判定マニュアル」の作成にも携わった。
肝細胞がんの新治療分野である分子標的治療の研究にも積極的に取り組み「日本肝がん分子標的治療研究会」の世話人を務めるなどして分子標的治療の研究、臨床応用への意欲を燃やす。

診療内容

大垣市民病院は1959年に開設された歴史ある病院で、消化器内科は1963年に発足した。消化器内科の年間新入院患者数は約2,100人で消化器系全般にわたる診療を行っている。肝疾患では慢性肝炎を約1,500人、肝硬変を約200人、肝細胞がんを約300人治療しており、C型慢性肝炎に対するインターフェロン治療の実績は約1500例を超える。最近ではDAA(直接作用型抗ウイルス剤)を約800例に使用している。
消化器内科部長である熊田医師は同科全般をとりまとめながら、自身は肝疾患診療の中心的な存在として以下のような治療を行っている。
C型慢性肝炎では今まで主役であった副作用の強いインターフェロンをベースとした治療は終わりを迎えつつある。2014年9月からインターフェロンを用いない経口薬の治療が可能となり800例に使用し、95%以上で副作用もほとんどなくウイルスを駆除できている。今後はウイルス駆除後の肝細胞がんの発生が問題となると考えられ、定期的に検査を行っている。
一方、B型肝炎については1000人以上の患者を診療しており、年齢が若ければ(35歳未満)、インターフェロンの投与を、35歳以上ではエンテカビルという抗ウイルス薬(核酸アナログ)投与を主体に行って、肝硬変への進行と肝細胞がんの発生を抑制している。B型肝炎患者の85%から90%を占める無症候性キャリアの人の場合はただちに治療の必要はないが、低率ながらも肝発がんの危険性があるため半年に1回定期的に採血と画像診断を行って早期発見に努めている。
熊田医師はALT(GPT)正常(基準値内)のC型肝炎ウイルスキャリアであっても、線維化はゆっくりではあるが進み(通常の1/2の速さ)、やがて肝硬変や肝がんのリスクが出てくるという点を指摘している。熊田医師が提唱するALTを積分平均値で評価すると、肝発がんと密接な関係があり、ALTが基準値内(40IU/l以下)であっても、ALTが20IU/lを超え、かつ血小板が15万/m3 未満の症例は、他の群に比べて有意に肝発がんが高率であり、条件が整えば抗ウイルス療法の適応となるという。
ALTについては肝細胞障害時に血中に遊出してくる逸脱酵素のため、ALT値のワンポイントのみの判断は危険であり、経過を考慮して判断をする必要があるため、熊田医師の提唱する積分平均値での評価が有効になる。
「高齢者のC型肝炎患者ではALT低値でかつ血小板高値でも発がんします。日本ではC型肝炎患者の高齢化が進んでおり、異常値を示すまで待って治療機会を逸しないよう治療開始時期を的確に判断する必要があります」(熊田医師)
一方で、最近は生活習慣病である脂肪肝の患者が急増しており、同科では600人以上を治療している。とくに最近、注目を集める非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)については進行して肝硬変、肝細胞がんの発生に至る場合があるため、診断のために造影剤を使用した超音波診断や肝生検を行って、積極的に治療介入を行っている。
肝細胞がん(肝細胞から発生するがん)については同科では今までに2800例を超える経験がある。高危険群であるウイルス性慢性肝炎とウイルス性肝硬変の患者には腫瘍マーカー(αフェトプロテイン[AFP]、AFPレクチン分画[L3]、PIVKAII)の測定のほか、超音波検査を3~6ヶ月に1度、CT・MRIは6~12ヶ月に1度行って早期発見につなげており、同院で発見される肝細胞がんの大多数は2cm以下である。最終的な診断はCTと血管造影が一体となった血管造影装置(IVR-CT)を用いて行っている。
治療方針の決定は外科医と定期的にミーティングを開いて肝切除、ラジオ波焼灼術、肝動脈塞栓術などの選択肢から、それぞれの患者にとっての最善となる治療法を決定している。動注化学療法(体内にカテーテルを留置しリザーバーから抗がん剤を注入する)も高度進行例に対して積極的に行って、成績も向上してきている。
肝細胞がんの局所治療である肝切除、ラジオ波焼灼術、肝動脈塞栓術において日本は世界でも突出して進歩・発展してきた治療法で、その中でもラジオ波焼灼術は1回の穿刺で広い凝固巣を確保でき、有効率も高い。日本では1999年以降に行われ、2004年に保険適応となり急速に広まった。熊田医師はこのラジオ波焼灼術の名医として知られ、肝切除に比べて侵襲が少なく患者に負担のない治療法であり、有効性も高く予後も肝切除と遜色のないものとなっている。
熊田医師は「日本肝がん分子標的治療研究会」の世話人の1人として同会の運営にも携わる。
がんの分子標的治療は他のがんにおいて先行して開発されているが、肝細胞がんにおいても、経口マルチキナーゼ阻害薬であるソラフェニブ(Sorafenib)が「切除不能肝細胞がん」を適応症として2009年に承認されている。ソラフェニブはがん細胞そのものの増殖を阻止すると同時に血管新生を抑止するという2つの働きをする分子標的薬で、がん細胞の増殖と血管新生に関与する酵素(キナーゼ)であるRAFキナーゼ、VEGFR-2、VEGFR-3、PDGFR-β、c-KIT、FLT-3などを阻害するというマルチキナーゼ阻害剤である。
このほかの新しい分子標的薬も開発されており、最終的な臨床試験段階に入ってきており良好な治療成績が発表されている。また、免疫チェックポイント阻害剤の臨床治験も開始され参加している。肝がん治療において、今後ますますこの領域の発展が見込まれている。

医師プロフィール

1977年 名古屋大学医学部卒業
1977~1982年 大垣市民病院研修医、内科ローテート、消化器科
1982~1984月 名古屋大学医学部第2内科帰局(第4研究室)
1984年 大垣市民病院消化器科赴任
1987年 大垣市民病院消化器科医長
2000年 大垣市民病院消化器科部長
2011年 大垣市民病院副院長
2016年 名古屋大学医学部臨床教授