呼吸困難のとき 家庭の医学

 呼吸困難とは、室内でふつうの空気(室内気といい、酸素濃度は約21%)を吸っていて苦しさを覚える症状です。

■呼吸困難を起こす病気・けが
 呼吸困難を起こす病気・けがを表にまとめました。さまざまな病気・けがが呼吸困難の原因となります。

 呼吸困難が強くなると、肩で息をし、くちびるや指先が紫色になるチアノーゼという症状がみられます。こういう場合は救急車を呼んで、必要に応じて酸素吸入を受けながら医療機関へ搬送してもらうようにしましょう。
 すべての救急車、ほとんどの医療機関、在宅医療では、パルスオキシメータが設置され、呼吸状態の把握に用いられています。パルスオキシメータは経皮的に動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定する装置です。動脈血酸素飽和度とは、動脈血赤血球ヘモグロビンの何パーセントが酸素と結合しているかを示し、95%以上は正常ですが、おおむね90%以下になると酸素吸入を必要とする状態と判断します。パルスオキシメータは、呼吸状態の指標として日常的に広く使用されています。


■重症の呼吸困難を起こす病気
1.気管支ぜんそく
 気管支ぜんそくは、季節の変わりめなどに発作を起こすと、「ゼーゼー」(喘鳴〈ぜんめい〉)と息を吸ったり吐いて呼吸困難をうったえます。ぜんそくの発作が重症のときは、会話が困難で、苦しくて動けず、歩行不能、冷や汗をかき、汗で下着がぬれています。
 このような症状があるときは重症のぜんそく発作(大発作)ですから、ただちに救急車を呼んでください。ごく短時間のうちに呼吸停止となり、死亡することがあります。

2.肺血栓塞栓症
 長い間寝たきり状態だったり、長時間同じ姿勢をとっていると、下肢の深部の静脈に血のかたまり(血栓)ができやすくなります。この血栓が血流に乗り、肺にまで達して肺動脈を閉塞するのが肺血栓塞栓症です。
 手術のため長い間寝たきりだったり、国際線の飛行機や長距離バスに乗っていたり、たとえば、2004年の新潟県中越地震の際のように、狭い車内で夜を過ごしたりしたあとに発生しやすくなります。歩き始めた最初のころに突然、呼吸困難、胸痛、せき、血痰(けったん)がみられます。
 肺血栓塞栓症も、急死する可能性の高い病気です(発症後1時間以内に、約1割が死亡するといわれています)。すぐに救急車を呼びましょう。

3.心不全
 長期間の高血圧症弁膜症心筋症などの既往があったり、以前に心筋梗塞などを患ったことがあり、そのため心臓の機能が低下している状態を心不全といいます。心不全には、慢性的にじわじわと症状が起こる慢性心不全と、比較的短時間に呼吸困難やピンク色の泡のようなたんを喀出(かくしゅつ)する急性心不全とがあります。
 心不全の人は、息苦しいため横になれず、座ったままの姿勢を保とうとします(起坐呼吸〈きざこきゅう〉)。起坐呼吸がみられる心不全は、急激に症状が悪化することが多く、ただちに救急車を呼んでください。

(執筆・監修:社会医療法人恵生会 黒須病院 内科 河野 正樹)