急性肺血栓塞栓症〔きゅうせいはいけっせんそくせんしょう〕 家庭の医学

[原因]
 おもに下肢や骨盤部の深部静脈に発生した血栓が流れて肺動脈を閉塞し、急激な心不全や呼吸不全を呈する病気です。血栓が大きく閉塞が広い範囲に及ぶと、ショック状態になり死にいたることもあります。生活の欧米化に伴って、国内での発症数は増加傾向にあります。

[症状]
 もっとも多い症状は、急速に出現する呼吸困難や胸痛です。そのほかに、失神、発熱、咳嗽(がいそう:せき)、喘鳴(ぜんめい:呼吸するときのゼーゼーいう音)、冷や汗などをみとめます。長期臥床、肥満、長時間の手術、長期の副腎皮質ステロイド薬の投与、悪性腫瘍や妊娠、骨折などが発症のリスクとなります。海外旅行時のロングフライト後や震災後の車中生活など、下肢の血流停滞が生じるような状況で発症が増加することが知られています。

[診断]
 胸部X線検査や心電図、心臓超音波(エコー)検査では変化がみられない場合もあります。造影CT(コンピュータ断層撮影)検査は多くの施設ですみやかにおこなうことが可能であり、肺血栓塞栓症の診断に多く用いられています。造影CT検査で肺動脈内の血栓をみとめれば診断確定となります。血液のD-ダイマー検査も、診断に有用であると報告されています。肺血流シンチグラフィも診断には有用ですが、すみやかに施行できる施設は限られます。

[治療]
 血液を固まりにくくする抗凝固療法をおこないます。注射剤(ヘパリン)もしくは内服薬(ワルファリン)を用いることが多く、少なくとも3~6カ月間治療を継続します。血栓形成の危険因子を有する患者に対しては、より長期の治療も考慮します。近年になり、新規の抗凝固薬(凝固第Xa因子阻害薬)がワルファリンと同等の効果を有することが報告され、ワルファリンに代わる長期抗凝固管理薬として国内外で広く使用されています。
 高度の呼吸不全やショックを呈するような重症の症例に対しては、血栓を溶かす治療(血栓溶解療法)がおこなわれることもありますが、脳出血や消化管出血などの重篤な合併症の頻度も増加します。

(執筆・監修:順天堂大学大学院医学研究科 准教授〔呼吸器内科学〕 長岡 鉄太郎)
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