脳の老化〔のうのろうか〕 家庭の医学

 脳の萎縮は50歳ころからはじまりますが、脳機能は脳の萎縮とは比例していません。脳機能の一つである記憶力をみると、20歳代をピークにしだいにおとろえていきますが、これは流動性知能と呼ばれる能力です。いっぽう、総合判断力は、40歳代くらいまで増強を続け、その後もほとんど低下することはありません。これを結晶性知能といい、想像力・統合力・理解力などにより的確な判断をする能力と考えられています。
 もの忘れの程度ともっともよく相関するのは、リン酸化したタウたんぱく質(以下タウ)の蓄積で、近年、研究機関ではタウの蓄積を画像化するタウイメージングが可能となっています。
 タウが記憶の中枢である海馬(かいば)にとどまっている場合は「人の名前が思い出せない」など生理的なもの忘れにとどまりますが、側頭葉や頭頂葉にひろがるとアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)に進展します。
 脳の老化には、血管性因子も重要な役割を果たしており、年齢とともに大脳皮質の深部(大脳白質)に循環障害がひろがっていきます。この大脳白質病変は軽い場合は無症状ですが、動脈硬化高血圧と関連して中等度以上の大脳白質病変があると、つまずきやすい、転びやすい、むせる、トイレが近いなど、いっけん年のせいと思いがちな症状が出ます。

 これらの症状は隠れ脳梗塞や、原因不明で脳室が拡大する正常圧水頭症(すいとうしょう)でも類似の症状が出ますので、予防や治療の可能性を含め、脳神経科や老年科の専門医にかかることが大切です。
 加齢に伴って、脳内のセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質の分泌が減少し、うつ傾向、意欲の低下などがふえていきます。副腎性男性ホルモン(DHEA)の低下もこれに関与し、適量の肉食や運動などセロトニン、ドーパミンやDHEAが低下しない生活習慣が大切です。

(執筆・監修:地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター 理事長/国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐 鳥羽 研二)
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