門脈圧亢進症〔もんみゃくあつこうしんしょう〕

 脾(ひ)臓、腸、胃などからの静脈が門脈となって肝臓に入ることは、「肝臓と胆嚢の構造とはたらき」の項で述べているとおりです。
 この門脈の血圧は100~200mmH2Oですが、これが400mmH2Oとか500mmH2Oとかというように高くなった状態を門脈圧亢進症といいます。
 門脈圧が高くなると、門脈の血がわき道を通って大静脈系に流れようとします。そのわき道の一つは、食道下部の静脈を通る道です。そのため食道下部や胃の入り口部の静脈がはれて、こぶのようになります。“食道胃静脈瘤(りゅう)”といわれているものがこれです。
 食道胃静脈瘤は出血しやすく、出血すれば非常に大量で、患者は吐血し、そのため不幸な結果を招くこともあります。ですから、原因のいかんにかかわらず、門脈圧が高まっている場合は出血しないように、静脈瘤を内視鏡下に結紮(けっさつ)しなければなりません。
 この病気の場合、食道胃静脈瘤のほかにへそを中心に腹壁の静脈がはれて、はっきりわかるようになることもあります。病状が進めば、腹水もたまります。また、血中にアンモニアがふえ、意識障害が起きます。これは“肝性脳症”(肝性昏睡に進行する)といわれるものです。

[原因]
 1.肝硬変そのほかの肝臓の病気の場合、2.バンチ症候群(特発性門脈圧亢進症)の場合、3.門脈が先天的に狭くなっていたり、外から圧迫されて狭くなっている場合、血栓などでつまっている場合などがあります。

[治療]
 門脈圧亢進症の治療は、門脈圧を下げる治療と、門脈圧亢進症による症状を抑える治療との2つに大別されます。
 門脈圧を下げる治療として、門脈系と下大静脈系をつなぐシャント手術や、薬物療法、さらに肝移植などがあります。
 門脈圧亢進症による症状は食道胃静脈瘤と脾機能亢進症の2つがおもなものです。食道静脈瘤に対しては、内視鏡から静脈瘤に針を刺して硬化薬を注入する内視鏡的硬化療法や、内視鏡から静脈瘤に小さな輪ゴムをかけてしばってしまう内視鏡的結紮術がおこなわれます。出血していて内視鏡的止血が困難な場合は、緊急手術(食道離断術)も考慮されます。
 胃静脈瘤に対しては液体塞栓物質を用いて門脈圧亢進症の側副血行路(わき道としての静脈瘤)をふさぐ逆行性経静脈的硬化療法(BRTO)がおこなわれます。
 脾機能亢進症では貧血を起こすので、脾摘出術をおこないます。肝動脈塞栓術と同じように脾動脈塞栓術がおこなわれますが、完全に塞栓できないのでまもなく再発すること、塞栓物質が膵(すい)臓に流入すると膵壊死(えし)が起こること、脾膿瘍(のうよう)が起こると致命的となることなどの欠点があります。
 胃静脈瘤と脾機能亢進症を合併した例には、ハッサブの手術(脾摘・胃体上部腹部食道血行遮断・幽門形成)が有効です。

■バッド・キアリ症候群
 肝臓から流れ出る血液を運ぶ肝静脈か、あるいはその先の心臓へと連なっている下大静脈がつまったり狭くなっている状態です。このような場合、肝臓のうっ血が起こり肝臓がはれてくるため、門脈の血液の流れがわるくなり門脈の圧が上昇します。それに伴ってさまざまな症状を呈します。
 肝静脈あるいは下大静脈の先天的な構造異常や、なんらかの原因で血のかたまりが静脈にできてしまう状態が原因として考えられています。しかし、原因不明のものが約70%を占めています。また、血液疾患、ピルの服用、妊娠・出産、おなかの中の感染などを合併している例も多いといわれています。
 バッド・キアリ症候群はその症状の出現のしかたによって、急性と慢性に分けられます。急性型の症状は激しく、腹痛、吐き気、急速な肝臓のはれ、腹水などで発症します。血のかたまりが確認されれば、これを溶かすために薬物療法をおこないます。また、狭い部分にバルーン付きのカテーテルを入れてひろげたりすることもあります。場合によっては、早急に肝移植を考慮しなくてはならないこともありますが、そのようなタイプはまれで、大部分は慢性に経過していきます。慢性型は多くの場合症状がなく、症状が進むと足がむくんだり、腹水がたまったりします。このような場合、胃の内視鏡検査を受けて食道胃静脈瘤ができていないかをすぐに確認する必要があります。
 以上のように、バッド・キアリ症候群は原因不明であることが多くその治療法は必ずしも確立していないことから、厚生労働省の難病医療費助成制度対象疾病(指定難病)に指定され、医療費の公費負担対象になっています。
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