薬物療法〔やくぶつりょうほう〕

 腎臓病で使われる薬は大きく分けて3種類です。これら以外にもいくつかの薬がそれぞれの病態に応じて使われますが、基本となるのはこの3つの系統の薬です。
 1つは、水や電解質の体外への排泄(はいせつ)という腎臓の大切な機能を助ける「利尿薬」です。もう1つは、腎臓で重要な役割を果たしている「レニン-アンジオテンシン系を調節(抑制)する薬」です。3つ目は、副腎皮質ステロイド薬を含む「免疫抑制薬」です。腎臓病の多くは免疫に関連して発症してくることが多いため、よく用いられます。

■利尿薬
 利尿薬は大きく分けて利尿薬、レニン・アンジオテンシン系抑制薬、免疫抑制薬の3つの種類があります。
 一つは降圧利尿薬といわれ、高血圧の治療に用いられます。この降圧利尿薬はサイアザイド系と非サイアザイド系利尿薬に分かれます。これらの利尿薬は腎臓病よりも、むしろ高血圧における降圧目的で使われています。
 ループ利尿薬と呼ばれる利尿薬は、降圧利尿薬よりも利尿作用が強力なため、腎臓病が原因のむくみを取るため使われます。
 3つ目はカリウム保持性利尿薬(アルダクトンなど)です。降圧利尿薬としても、またむくみをとる目的でも使われます。
 そのほか、最近使われるようになったバゾプレシン拮抗薬があります。バゾプレシンは下垂体後葉から分泌されるホルモンで、腎臓のネフロンの集合管に作用し、水分を保持するようにはたらきます。この作用を抑制することにより利尿をはかるのがバゾプレシン拮抗薬です。
 利尿薬は腎臓に作用して水や電解質の排泄をうながしますので、副作用として低ナトリウム血症、低カリウム血症(カリウム保持性利尿薬を除く)、脱水などが起こる場合があります。

■レニン-アンジオテンシン系抑制薬
 レニン-アンジオテンシン系とは、腎臓で産生されたレニンがアンジオテンシンⅠという物質を経てアンジオテンシンⅡ(血管の収縮とアルドステロンの調節をおこなうホルモン)に変換され、アンジオテンシンⅡ受容体に作用するまでの経路を指します。
 この系を抑制する薬剤は現在2種類あります。アンジオテンシンⅠからアンジオテンシンⅡをつくり出すアンジオテンシン変換酵素(ACE)のはたらきを抑制し、アンジオテンシンⅡの量を減らすACE阻害薬がその一つです。もう一つは、アンジオテンシンⅡ受容体の作用を抑制するはたらきをするアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)です。
 そのほか、最近レニン阻害薬が使われるようになりました。この薬はレニンの作用を直接抑制し降圧をもたらします。
 アンジオテンシンⅡは全身の血圧を上昇させ高血圧をもたらすだけでなく、腎臓の糸球体内部の血圧も上昇させます。いずれの状態も長い間続くと糸球体がかたくなり、その結果、濾過(ろか)機能が低下すると考えられています。またアンジオテンシンⅡが直接、腎臓の構造を悪化させている可能性も指摘されています。
 糸球体内部の圧が高くなると、正常であれば濾過されないたんぱくやアルブミンが尿中に漏出してきますが、レニン-アンジオテンシン系抑制薬は腎臓からのたんぱく尿の排泄(はいせつ)を抑制し、腎臓病の進展抑制効果があるとされています。
【参照】糖尿病腎症

■免疫抑制薬
 腎臓病の発症・進展にはさまざまな免疫反応が関与しています。したがって、そのような免疫反応を抑えることにより、腎臓病の発症・進展を阻止しうる可能性があります。腎臓病で使われている免疫抑制薬は副腎皮質ステロイド薬、シクロホスファミド、シクロスポリン、ミゾリビンなどがあります。

1.副腎皮質ステロイド薬
 副腎皮質ステロイド薬は、腎臓病では特にネフローゼ症候群の治療薬としてよく用いられています。この薬剤は効果もしっかりとあらわれますが、腎臓病の場合は長期にわたって使われますので、さまざまな副作用が出現します。
 副作用のあらわれかたは人によって異なりますが、多くは顔全体がまるくなる(満月様顔貌〈まんげつようがんぼう〉)、肩のまわりに脂肪の塊ができる(バッファローハンプ)、皮膚に線を引いたようなあとができる(皮膚線状)など外見の変化が、1カ月間くらい服用すると出現してきます。さらに胃潰瘍になりやすくなったり、骨がもろくなったり(骨粗鬆症〈こつそしょうしょう〉)、また感染症にかかりやすくなったりします。

2.シクロホスファミド、シクロスポリン、ミゾリビン
 シクロホスファミド、シクロスポリンならびにミゾリビンは特殊なネフローゼ症候群や二次性腎疾患のなかでも免疫に関連している全身性エリテマトーデスに使われます。
 これらの薬剤は白血球をはじめとする血球成分の骨髄における産生を抑制しますので、副作用として白血球などの著明な減少がみられる場合があります。また、シクロホスファミドでは膀胱(ぼうこう)出血が起こることがあります。ミゾリビンはシクロホスファミドとくらべて副作用は少ないとされていますが、肝臓の機能を低下させたり、肺の線維症を起こすことがあります。

□分子標的治療薬
 リツキシマブ(Rituximab)は、抗ヒトCD20ヒト・マウスキメラ抗体からなるモノクローナル抗体であり、抗がん薬・免疫抑制薬などとして使用されています。
 現在(2022年2月)適応のある腎疾患は多発血管炎性肉芽腫症、顕微鏡的多発血管炎、小児期に特発性ネフローゼ症候群を発症しステロイド感受性を示す患者で、既存治療(ステロイド、免疫抑制薬等)では寛解が維持できない場合に限られています。いっぽう、成人期に発症したネフローゼ症候群の患者に対する有効性および安全性は確立していません。

 リンはカルシウムとともに骨の形成や細胞のエネルギーに関与する大変重要な電解質です。リンの生体での制御は複雑ですが、腎機能障害が進行すると血中のリンの濃度は上昇し、骨や血管にさまざまな影響を及ぼしてくることより、できるだけ血中のリンの濃度を正常に近く維持することが重要です。そこで、慢性腎臓病では高リン血症治療薬が使われます。
□高リン血症治療薬
 リンの腸管からの吸収を抑える目的でリン吸着薬が使われています。現在国内では6つの高リン血症治療薬があります。
1.カルタン®(沈降炭酸カルシウム)
2.フォスブロック®、レナジェル®(セベラマー塩酸塩)
3.ホスレノール®(炭酸ランタン水和物)
4.キックリン®(ビキサロマー)
5.リオナ®(クエン酸第二鉄水和物)
6.ピートル®(スクロオキシ水酸化鉄)

 しかし、これら高リン血症治療薬の服用にいくつか制限があります。以下にあげる疾患や症状に該当する人は服用にあたり注意が必要です。
・肝臓に重い障害がある
・活動性消化性潰瘍
・潰瘍性大腸炎
・クローン病
・腸管狭窄(腸が狭くなって、食べたものが通りにくくなった状態)
・腸管憩室
・腹膜炎
・過去に腹部を手術したことがある
・消化管潰瘍がある または 過去にあった
・高齢の人

 また高リン血症治療薬に共通することは、便秘がもっともよくみられる副作用です。したがって、ときには便秘薬との併用も必要となります。
 これらの薬剤を比較してみますと、錠剤、カプセル、チュアブル、細粒、顆粒があります。薬はなによりもまず、のみやすいかどうかがポイントです。これは人それぞれ好みがあり錠剤が好きな人、顆粒や細粒が好きな人などそれぞれです。さらに食直前、食直後と服用のしかたが分かれています。食物中のリンは腸管から吸収される前に薬と結合し排泄されたほうがよいので、リン吸着薬は食物と混ざり合うことが重要であることより、食直前あるいは食事中がよく、少なくとも食直後までに服用する必要があります。次に透析患者さんは多数の薬を服用されていることが多いので、いっしょにのむと注意が必要な薬があります。それらを合わせて簡単に各薬について説明をします。

1. カルタン®
 錠剤、細粒、OD錠(口腔内崩壊錠)があり、腸内でリンと結合し、溶けないままでリン酸カルシウムをつくりそのまま排泄されます。食直後に服用します。高カリウム血症改善薬、キニジン(不整脈治療薬)、活性型ビタミンD製剤は一緒に服用するときには注意が必要です。

2. フォスブロック®、レナジェル®
 錠剤のみで、リンに結合しポリマー(重合体)が形成され、排泄されます。食直前に服用します。

3. ホスレノール®
 チュアブル錠、顆粒、OD錠があります。腸内でリンと結合し、リン酸ランタンを形成し排出します。食直後に服用します。

4. キックリン®
 顆粒およびカプセル製剤で、吸収されないアミノ機能性ポリマーがアミノ基を介してリンと結合して排出されます。食直前に服用します。水などを吸収してふくらむことが少ないので、消化管への影響が少ないとされており、金属が体内に蓄積する可能性は少ないことが特徴です。アトルバスタチン、エナラプリル、バルサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン、オルメサルタン、イルベサルタンをいっしょに服用するときには注意が必要です。

5.リオナ®
 錠剤であり、クエン酸とリンと結合力の強い第二鉄の化合物で、腸内で鉄とリンが結合し、それを排出します。食直後に服用します。成分の一部の鉄が吸収されるので、鉄欠乏を防ぐことが一つの長所とされていますが、逆に鉄や造血過剰になる可能性もあり、注意が必要とされています。

6. ピートル®
 顆粒およびチュアブル錠があり、食直前に服用します。多核性の酸化水酸化鉄(Ⅲ)の水酸基および水和水とリン酸イオンが交換することによりリンが吸着されます。
 一般にニューキノロン系抗菌薬、甲状腺ホルモン、セフム系抗菌薬、抗パーキンソン薬をいっしょに服用するときには注意が必要です。

 リオナ®とピートル®は鉄を含んでいるため、消化性潰瘍、炎症性腸疾患等の胃腸疾患があったり、C型慢性肝炎等の肝炎を患っていたり、その他、血液疾患や鉄過剰のある人では慎重に服用することが求められています。また、両者とも便が黒くなります。

□腎性貧血治療薬
 腎機能障害が進行するとともに貧血が出現します。従来はエリスロポエチン製剤として皮下注射で医療機関においておこなってきましたが、最近経口薬としてプロリン水酸化酵素阻害薬(一般にはHIF(ヒフ阻害薬)と称されている)が発売されています。現在国内では5つの同効薬剤があり、現時点ではまだ明確にガイドラインで使いかたが示されてはいません。

 上記以外にも慢性腎臓病では高K血症治療薬、Ca受容体作動薬が使われていますが、明確な適応基準がなく、それぞれの状況に応じて使われています。

(執筆・監修:医療法人財団みさき会 たむら記念病院 院長 鈴木 洋通)
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