ファミリープラン
妊娠・出産の時期や何人の子どもをもつかは夫婦の人生観、経済状態、健康状態、年齢などによって異なりますが、ファミリープランの基本は「すべての子どもたちは夫婦が望んで生まれた子どもたちである」というものです。人工妊娠中絶は安易におこなわれるべきではありませんので、そのためには夫婦はたがいに受胎調節の知識をもってきちんと話しあい、ファミリープランを立てることが必要です。
また、子どもが欲しくても妊娠できない不妊症のカップルは全体の約10~15%いるといわれていますが、不妊治療のめざましい進歩によって、その技術を用いてたくさんの子どもたちが誕生しています(不妊症の治療)。
子どもを産むか否か、何人産むか、いつ産むかは女性の人生にとって大切なことですので、年齢や健康状態、人生設計を考えて、パートナーと相談して自分で決めてください。
■産む間隔
カップルで決めることではありますが、一般的には、子どもを産む間隔については2~3年が理想的でしょう。
女性のからだが出産後精神的・身体的に完全に回復するのに数カ月を要します。また、生後まもなくの子どもの育児は相当なエネルギーを消耗しますので、歩き始める1歳ころまでは母親の負担は大きいうえ、母乳で哺育(ほいく)をしている場合、産後6カ月から1年くらいは母親の月経はとまっていることがあります。次の妊娠をするのが産後1年経てからとなると、出産は2年くらい間があくことになります。
前の妊娠・出産で異常があったり、消耗が激しかった場合はもう少し間をあけたほうがいいでしょう。しかし、一般に5歳以上離れると一人っ子がふたりいるような状態になるといわれています。女性の年齢が35歳をすぎているなら、妊孕(にんよう)性(妊娠のしやすさ)を考えてあまり間をあけないほうがよいこともあります。いっぽう、近年は生殖補助医療を利用して妊娠・出産するカップルもふえ(2020年では全出生児840,835人に対して60,381人、7.2%を占め、おおよそ14人に1人が生殖補助医療によって生まれています)、凍結胚を保存している場合も多々あります。産む間隔はこうしたことを参考にしてください。
■高齢出産
□高齢出産のリスク
妊娠・出産の時期については、生物学的には性成熟期である25歳前後が母子にとってもっともよいといわれます。しかし、最近の周産期医療はいちじるしく進歩しています。リスクに応じて分娩施設を選択し周産期の管理をおこなうことにより、従来から心配されている高齢出産のリスクをできるかぎり軽減し、安全に出産できるような体制が整備されつつあります。
高齢妊娠とは、明確な定義はありませんが、一般的に35歳以上の妊産婦をいい、その頻度は年々増加しています。2022年における第1子出生時の母の平均年齢は30.9歳であり、35歳以上の出生は全体の30%を占めています。
一般的に、高齢出産のリスクとしては次のものがあげられます。
1. 自然流産
妊娠した際の自然流産率は35歳未満では10%程度ですが、35~39歳では20%を超え、40歳を過ぎると40%以上と高率になります。これは母体の加齢に伴う卵子の質の変化がおもな原因といわれています。
2. 染色体異常
母体が年齢を重ねるほど、染色体異常をはじめとする先天異常の発生が増加することは調査からもあきらかにされています。染色体異常の種類には、正常ヒト染色体数(2n=46)よりも染色体が1本多いか少ないかの異数性(1本少ないものをモノソミー、1本多いものをトリソミー)が多く、これらの異常の多くは配偶子(精子や卵子)を形成するときに起こる細胞分裂(成熟分裂または減数分裂ともいう特殊な細胞分裂)の際の染色体不分離で生じるといわれています。代表的な染色体異常であるダウン症候群は、その多くが母由来の21番染色体が過剰となっているトリソミー型を示すといわれ、母体年齢が25歳ではおおよそ1200人に1人、30歳では880人に1人、35歳では360人に1人、40歳では100人に1人生まれ、40歳以上ではさらに頻度が高くなっています。
3. 婦人科疾患の合併症・生活習慣病
加齢に伴い、子宮筋腫(きんしゅ)、子宮内膜症、子宮がん(子宮頸がん、子宮体がん)などの婦人科疾患の合併は多くなり、また子宮の手術既往の頻度も高くなります。さらに糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病の発症頻度も高くなります。
4. 妊娠高血圧症候群(従来の妊娠中毒症)などの発症
加齢に伴い、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、前置胎盤(ぜんちたいばん)、癒着胎盤、切迫早産・早産などの妊娠合併症や異常妊娠をきたしやすく、また、妊娠中に基礎疾患の増悪をみることがあります。さらに生殖補助医療などの不妊治療の影響で、多胎妊娠の頻度が他の年齢よりも高率になり、より上記合併症や異常妊娠をきたしやすくなります。
5. その他
上記3.と4.により、早産ばかりでなく、低出生体重児や周産期死亡、母体死亡の頻度は増加します。また、分娩遷延(ぶんべんせんえん)傾向、分娩時出血量増加、産科手術(吸引分娩、鉗子〈かんし〉分娩、帝王切開)の頻度が高齢妊娠、特に40歳を超えると増加するといわれ、妊娠中ないしは産後に静脈血栓塞栓症を発症するリスクも増加します。
□高齢出産の注意点
前述のリスクを念頭において次の点に注意しましょう。
1.妊娠前から、婦人科検診を受け、婦人科合併症の有無をチェックすることが必要です。基礎疾患も含めて、治療できるものは早めに治療して、よい状態にコントロールします。
2.バランスのよい食事として、たんぱく質、鉄、カルシウム、葉酸などを十分に摂取しておくことをすすめます。妊娠後は初期段階よりやや減塩とし、カロリーを取りすぎないなどの食事管理をし、適度な運動とともに疲労やストレスをためないように安静を心掛け、妊娠前の体重やBMI(body mass index:体重/身長2〈kg/m2〉)にもとづき、妊娠中の至適体重増加を目指します。やせや肥満に該当する場合は、特に適切な食事指導を受けて、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病の発症を予防するようつとめます。
3.禁煙はいうまでもありませんが、受動喫煙にも気をつけ、アルコール摂取は控えましょう。外食が多くなるときにも食事の質や栄養のバランスに配慮します。
4.定期的な妊婦健診は欠かさず受けましょう。他の年齢に比較して、検査入院や安静入院を指示される頻度は高くなるかもしれません。
5.分娩時には母児の状態や分娩経過にあわせて適切な分娩様式を選択してもらうことが大切です。
これらを十分に正しく理解して、妊娠・分娩に対応すれば、母児ともにもっともリスクの少ない、より安心で満足度の高い出産と子育てのスタートができると思います。
(執筆・監修:恩賜財団 母子愛育会総合母子保健センター 愛育病院 名誉院長 安達 知子)
また、子どもが欲しくても妊娠できない不妊症のカップルは全体の約10~15%いるといわれていますが、不妊治療のめざましい進歩によって、その技術を用いてたくさんの子どもたちが誕生しています(不妊症の治療)。
子どもを産むか否か、何人産むか、いつ産むかは女性の人生にとって大切なことですので、年齢や健康状態、人生設計を考えて、パートナーと相談して自分で決めてください。
■産む間隔
カップルで決めることではありますが、一般的には、子どもを産む間隔については2~3年が理想的でしょう。
女性のからだが出産後精神的・身体的に完全に回復するのに数カ月を要します。また、生後まもなくの子どもの育児は相当なエネルギーを消耗しますので、歩き始める1歳ころまでは母親の負担は大きいうえ、母乳で哺育(ほいく)をしている場合、産後6カ月から1年くらいは母親の月経はとまっていることがあります。次の妊娠をするのが産後1年経てからとなると、出産は2年くらい間があくことになります。
前の妊娠・出産で異常があったり、消耗が激しかった場合はもう少し間をあけたほうがいいでしょう。しかし、一般に5歳以上離れると一人っ子がふたりいるような状態になるといわれています。女性の年齢が35歳をすぎているなら、妊孕(にんよう)性(妊娠のしやすさ)を考えてあまり間をあけないほうがよいこともあります。いっぽう、近年は生殖補助医療を利用して妊娠・出産するカップルもふえ(2020年では全出生児840,835人に対して60,381人、7.2%を占め、おおよそ14人に1人が生殖補助医療によって生まれています)、凍結胚を保存している場合も多々あります。産む間隔はこうしたことを参考にしてください。
■高齢出産
□高齢出産のリスク
妊娠・出産の時期については、生物学的には性成熟期である25歳前後が母子にとってもっともよいといわれます。しかし、最近の周産期医療はいちじるしく進歩しています。リスクに応じて分娩施設を選択し周産期の管理をおこなうことにより、従来から心配されている高齢出産のリスクをできるかぎり軽減し、安全に出産できるような体制が整備されつつあります。
高齢妊娠とは、明確な定義はありませんが、一般的に35歳以上の妊産婦をいい、その頻度は年々増加しています。2022年における第1子出生時の母の平均年齢は30.9歳であり、35歳以上の出生は全体の30%を占めています。
1975年 | 1985年 | 1995年 | 2005年 | 2015年 | 2020年 | 2022年 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
平均年齢(歳) | 25.7 | 26.7 | 27.5 | 29.1 | 30.7 | 30.7 | 30.9 |
令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況より作成 |
一般的に、高齢出産のリスクとしては次のものがあげられます。
1. 自然流産
妊娠した際の自然流産率は35歳未満では10%程度ですが、35~39歳では20%を超え、40歳を過ぎると40%以上と高率になります。これは母体の加齢に伴う卵子の質の変化がおもな原因といわれています。
2. 染色体異常
母体が年齢を重ねるほど、染色体異常をはじめとする先天異常の発生が増加することは調査からもあきらかにされています。染色体異常の種類には、正常ヒト染色体数(2n=46)よりも染色体が1本多いか少ないかの異数性(1本少ないものをモノソミー、1本多いものをトリソミー)が多く、これらの異常の多くは配偶子(精子や卵子)を形成するときに起こる細胞分裂(成熟分裂または減数分裂ともいう特殊な細胞分裂)の際の染色体不分離で生じるといわれています。代表的な染色体異常であるダウン症候群は、その多くが母由来の21番染色体が過剰となっているトリソミー型を示すといわれ、母体年齢が25歳ではおおよそ1200人に1人、30歳では880人に1人、35歳では360人に1人、40歳では100人に1人生まれ、40歳以上ではさらに頻度が高くなっています。
3. 婦人科疾患の合併症・生活習慣病
加齢に伴い、子宮筋腫(きんしゅ)、子宮内膜症、子宮がん(子宮頸がん、子宮体がん)などの婦人科疾患の合併は多くなり、また子宮の手術既往の頻度も高くなります。さらに糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病の発症頻度も高くなります。
4. 妊娠高血圧症候群(従来の妊娠中毒症)などの発症
加齢に伴い、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、前置胎盤(ぜんちたいばん)、癒着胎盤、切迫早産・早産などの妊娠合併症や異常妊娠をきたしやすく、また、妊娠中に基礎疾患の増悪をみることがあります。さらに生殖補助医療などの不妊治療の影響で、多胎妊娠の頻度が他の年齢よりも高率になり、より上記合併症や異常妊娠をきたしやすくなります。
5. その他
上記3.と4.により、早産ばかりでなく、低出生体重児や周産期死亡、母体死亡の頻度は増加します。また、分娩遷延(ぶんべんせんえん)傾向、分娩時出血量増加、産科手術(吸引分娩、鉗子〈かんし〉分娩、帝王切開)の頻度が高齢妊娠、特に40歳を超えると増加するといわれ、妊娠中ないしは産後に静脈血栓塞栓症を発症するリスクも増加します。
□高齢出産の注意点
前述のリスクを念頭において次の点に注意しましょう。
1.妊娠前から、婦人科検診を受け、婦人科合併症の有無をチェックすることが必要です。基礎疾患も含めて、治療できるものは早めに治療して、よい状態にコントロールします。
2.バランスのよい食事として、たんぱく質、鉄、カルシウム、葉酸などを十分に摂取しておくことをすすめます。妊娠後は初期段階よりやや減塩とし、カロリーを取りすぎないなどの食事管理をし、適度な運動とともに疲労やストレスをためないように安静を心掛け、妊娠前の体重やBMI(body mass index:体重/身長2〈kg/m2〉)にもとづき、妊娠中の至適体重増加を目指します。やせや肥満に該当する場合は、特に適切な食事指導を受けて、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病の発症を予防するようつとめます。
3.禁煙はいうまでもありませんが、受動喫煙にも気をつけ、アルコール摂取は控えましょう。外食が多くなるときにも食事の質や栄養のバランスに配慮します。
4.定期的な妊婦健診は欠かさず受けましょう。他の年齢に比較して、検査入院や安静入院を指示される頻度は高くなるかもしれません。
5.分娩時には母児の状態や分娩経過にあわせて適切な分娩様式を選択してもらうことが大切です。
これらを十分に正しく理解して、妊娠・分娩に対応すれば、母児ともにもっともリスクの少ない、より安心で満足度の高い出産と子育てのスタートができると思います。
(執筆・監修:恩賜財団 母子愛育会総合母子保健センター 愛育病院 名誉院長 安達 知子)