喉頭がん(喉頭腫瘍)〔こうとうがん(こうとうしゅよう)〕

 耳鼻咽喉科の扱う領域のしくみは複雑で、耳鼻咽喉科の医師はその領域の外科でもあります。日本耳鼻咽喉科学会は2021年に日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会に改名されました。これまで通り耳鼻咽喉科の医師が、頭頸部がん全般を中心になって治療してゆきます。口の中の舌を含めて、まず耳鼻咽喉科に相談しましょう。

 喉頭がんの多くは、声がれの時点で受診すれば早期発見が可能な数少ないがんの一つです。
 嗄声(させい)が原因なく1週間以上続いたら、思い切って耳鼻咽喉科を受診してください。早期であれば、多くの場合声を失うことなく完治が望めます。進行すると喉頭摘出で声を失うこともあります。
 耳鼻咽喉科領域のがんでもっとも頻度が高く、肺がん以上に喫煙がその原因とされています。
 性差は男性が女性の約10倍と多く、多くは60~70歳代の高齢者に発生します。声帯そのものにできる声門がんが、声門の上(声門上がん)と下(声門下がん)にくらべ圧倒的に多く発生します。
 声門がんの場合、まずはじめに声がれがみられ、早期発見の可能性の高いがんの一つです。がんが声帯に限られていて、リンパ節を含む転移のない状態で見つかることも多く、この場合、適切な治療で社会に完全に復帰することが期待できます。近年、内視鏡の発展や喉頭ストロボスコピー(声帯振動を観察する)、がん病変の新生血管を光の波長を変化させて観察する電子内視鏡検査の普及で、早期発見の精度が上がっています。
 いっぽう、声門以外の喉頭がんでは、早期の場合、声門下がんはせき、声門上がんは異物感などで、進行すると声がかれたり、出にくくなったりします。つまり、進行して声門に病変が進展してはじめて発見されることも多く、初診時すでにリンパ節などに転移が見つかることが多くあります。

[治療]
 早期の場合、放射線療法だけで根治できる可能性があります。手術の場合、施設によっては極早期にレーザーで治療する報告もありますし、部分切除といって発声機能を残す方法や、声帯を失っても声が出せるようにする方法も報告されています。しかし、誤嚥(ごえん)をくり返したり、効果が確実でない場合もあります。他の腫瘍と同様に、化学療法の選択もあります。部位と組織型に応じて、いちばんよい治療法が選択されます。
 喉頭は、呼吸、嚥下(えんげ)、発声にかかわる重要なところです。もし、がんですべてをとってしまうと、呼吸はくびの前に穴をあけて(気管切開)おこないます。したがって、呼吸はできますが、鼻の機能(においや加温・加湿・ほこりを取り除く機能)がほぼ失われます。口に入った食べ物や水分は、すべて食道に入り食事は安全にできますが、発声機能が失われます。この発声機能を改善する方法には食道発声といって、空気を飲み込んで食道の粘膜を振動させて声を出す方法や、シャント術という呼気を用いた自然に近い発声方法もあります。
 声帯の振動はあくまで音でしかなく、構音器官で音色を加えて声にするわけですから、基本的には振動音があればいいわけです。練習が必要ですが、食道発声の上手な人は話すことはもちろん、歌も上手にうたい社会復帰しています。喉頭を摘出した人が食道発声を教えあい、励ましあう会がそれぞれの地域にあります。
 シャント術では気管と食道をつなぐシャント手術が必要で、ほかに電気喉頭(人工喉頭)で振動を与えて発声する方法もあります。

(執筆・監修:独立行政法人 国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター 人工臓器・機器開発研究部長 角田 晃一
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