機能性発声障害〔きのうせいはっせいしょうがい〕 家庭の医学

 声帯などの発声器官に器質的な障害がないにもかかわらず起こる声の障害を機能性発声障害といいます。
 機能性発声障害の診断は耳鼻咽喉科専門医でもむずかしい場合があります。その場合、日本音声言語医学会が認定した音声専門医である音声言語認定医や、専門の言語聴覚士である音声言語認定士のいる医療機関(音声外来、喉頭〈こうとう〉外来など)を受診し、原因を理解したうえで、音声訓練をおこなえば治りやすい病気です。

■心因性失声
 機能性発声障害の代表的なものが心因性失声症です。せきばらいや飲み込みの反射などでは、声帯はしっかり閉じて振動もするのに、いざ声を出すときは声帯を振動させないように声門(左右の声帯のすきま)が開き、ささやき声のようになります。
 激しい情動のストレスを受けて起こる場合が多く、十代の若年者にも多くみられます。かりに訓練で声が出るようになっても、ふたたびストレスの環境に戻れば失声やほかの症状が出ることもあり(視・聴覚障害など)、ヒステリー性失声ともいわれます。ストレスなど原因を本人が克服すれば自然に治ることが多く、本人が声を出す意思があれば音声訓練で改善します。治療はせきで左右の声帯を閉じさせ、ハミングから始めて徐々に歌を歌い、声のアクセントや抑揚、高さ変化を与えて訓練します。この際、カラオケなども有効です。
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、口腔、咽頭、喉頭の激しい炎症が起きる場合が多く報告されました。その後に新型コロナウイルス感染症が治っても、声が出にくいなどの症状が残る人もいます。原因の多くは声を使用しなかったことによる声帯の萎縮や、痛みへの恐怖による心因性の発声障害です。このため社会生活に復帰して会話によるコミュニケーションが始まれば徐々に治ります。ただ、続くようなら一度耳鼻咽喉科を受診してみてください。異常がなければどんどん声を出すようにしましょう(音声訓練は長寿社会の耳鼻咽喉科の項の図参照)。

■変声障害(声変わり障害)
 男性にみられるものに変声障害(声変わり障害)があります。多感な変声期に多種の情緒的な動揺や心理的葛藤で、無意識のうちに「大人になることとしての声変わり」を拒絶し、結果として成長したのどで「子どもの声を出すくせ」がついてしまう、とも考えられています。
 典型的な症状は極端に高いウラ声発声です。本人が「大人の声になりたい」との希望があり、しっかりとした病態の説明をしたうえで音声治療をおこなえば治りやすい病態です。

(執筆・監修:独立行政法人 国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター 人工臓器・機器開発研究部長 角田 晃一
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