Dr.純子のメディカルサロン

能登地震被災者の話しづらい悩みを知る

 発生から10日以上が経過した能登半島地震ですが、まだ断水が続いている地域もあり、シャワーや入浴ができない方も多い状況です。着替えもできず、着の身着のままで過ごしているという声もあります。不安でプライバシーを守りにくい環境の下、つらくても声を上げにくい悩みがあると思われます。

(文 海原純子)
雨の中、被災地を歩く人(6日、石川県珠洲市)

雨の中、被災地を歩く人(6日、石川県珠洲市)

 ◇ストレス我慢、適応障害・うつの懸念

 その一つは心の問題です。環境が変わり生活リズムを整えることが難しい中で、被災者の方にはストレスがかかっていると言えます。適応障害が起こりやすい状況ですが、体調が悪くても「みんな大変で我慢しているから」と思って我慢を続け、過剰適応の状態からうつに陥る懸念があります。

 熟睡感がなく早朝に目が覚めることが続いたり悪夢を見たりする、食欲不振が続く、といった場合は適応障害のサインの可能性があります。めまいや耳鳴り、イライラ、物忘れ、下痢などもストレスサインと言えます。周りの方が「体調はどうですか」と声を掛けたり、自分でも気が付いたときに周りの方に伝えたりするなどして、必要な支援につなげてほしいと思います。

 ◇尿路感染症のリスク

 水の不足で手洗いやうがい、歯磨きが十分にできず、呼吸器系の感染症のリスクが強く懸念されることは言うまでもありません。

 それとともに心配なのは、女性のぼうこう炎などの尿路感染症です。水分を控え、トイレに行くのを我慢しているとぼうこう炎を発症しやすくなります。入浴できなかったりして体の清潔を保つことが難しい場合も、尿路に感染が起こりやすくなるためにぼうこう炎のリスクが高まります。罹患(りかん)すると排尿のたびに痛み、放置すると細菌が腎臓に達して腎盂(じんう)炎になり、発熱や腰痛を引き起こしますので早めの治療が必要です。

 尿路感染症は生理中や生理後にも注意が必要です。避難所で生理用品が不足し、まめに取り換えられない場合などは清潔な状態を保てず、感染しやすくなります。

 ◇生理や体内の障害で不安も

 生理に関しては、ストレスを受けるとホルモンバランスの乱れから一時的に止まったり、逆に不正出血が頻発したりすることがあります。過去にそうした経験がない方は、急に出血が起こると不安になると思います。このような生理の悩みやぼうこう炎による排尿時の痛みなどについてはなかなか言いだせないでしょうから、避難所にいる女性の支援者に連絡できるようにしてほしいと思います。

 声の上げにくさでは内部障害を持つ方も同様と言えます。人工肛門や人工ぼうこうなどを装着した人「オストメイト」は、外見では障害があると分かってもらえず、装具について口にするのを遠慮しがちと言います。生理用品などを配布する際に「ほかにトイレのことなどで必要なものがある方はおっしゃってください」といった言葉を添えてもらえると安心するという声がありました。


 被災者が口に出しにくい悩みについて知っておき、必要な支援に早めにつなげることが望まれます。(了)

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