「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~
マスク継続と3回目接種が鍵
~ワクチン7割超の社会が行うべき第6波対策~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第31回】
日本では新型コロナウイルスの感染者数が急速に減少しています。ワクチン接種率も7割を超えており、流行の終息を期待している人も少なくないでしょう。しかし、冬の到来とともに、次の流行の波は少しずつ近付いています。10月末になり、西欧諸国で感染者数が増加傾向にあるのは、その前兆とも言えます。ただし、これから日本が迎える流行は、ワクチン接種率7割以上と、多くの国民が免疫状態にある中での流行になり、今までとは異なる対応が求められています。今回は、これからのコロナ流行で必要とされる新たな対策について解説します。
渋谷のスクランブル交差点=2021年01月17日=AFP時事
◇第6波の流行規模
日本で次なる第6波の流行はいつから起こるのでしょうか。これは冬の到来する時期や国内でのワクチン接種状況などによります。また、これから日本では社会生活を回復させるための数々の制限緩和が行われていきますが、そのスピードも影響してくるでしょう。いずれにしても、12月ごろには第6波が始まると考え、準備をする必要があります。
この第6波では感染者数が第5波に比べて少なくなるとともに、重症者や死亡者の数も少なく抑えられると予想されています。これは国民の多くがワクチンを受けているからです。感染しやすいのは、未接種者や接種しても時間が経過している人たちになるでしょう。さらに、ワクチン接種を受けている人は、感染しても軽症で済むケースが多くなります。
このように第6波は避けられないでしょうが、ワクチン接種の効果で、その規模は今までより小さな波になることが予想されます。
◇軽症者向けの医療体制整備
小さい波だとしても医療体制は十分に準備しておかなければなりません。この対応は今までと異なり、軽症や中等症向けの診療体制整備が中心になります。第5波の時も自宅療養中に症状が急に悪化する患者が発生しましたが、こうしたケースが第6波ではさらに増えてくる可能性があります。軽症者は自宅や宿泊所で療養することになるため、そうした患者の健康監視システムを確実にすることが必要です。また、悪化した患者をすぐに受け入れる医療機関も確保しなければなりません。
軽症者の診療で明るい光は経口治療薬の登場です。米国のメルク社が開発した経口治療薬は、軽症者に投与すると入院を半分近くに減らす効果があると報告されています。この治療薬が米国だけでなく、日本でも近いうちに販売される見込みです。
◇検査体制のさらなる拡充
ワクチン接種を受けた人は、感染しても軽症で済むケースが多くなりますが、こうした患者は周囲にウイルスを放出するのでしょうか。これに関しては欧米などで、いくつかの研究が行われており、放出するという結果が多くなっています。最近、英国で行われた調査(Lancet Infectious Disease 21/10/29)でも、ワクチン接種の有無にかかわらず感染者はウイルスを放出しますが、接種者ではその期間が短くなると報告されています。つまり、ワクチン接種後に感染した人も、期間こそ短いものの感染源になり得るのです。
こうした状況からすると、ワクチン接種後に感染した軽症の患者を早期に診断することが、これからの流行抑え込みの重要な鍵になります。行政側としては、医療機関などで検査が容易に受けられる体制を今まで以上に整備すべきです。最近は簡易的な抗原検出キットが普及してきており、症状がある人の診断に有用であることが明らかになっています。国民の皆さんも、軽い症状だからと油断せず、早めに医療機関を受診してコロナの検査を受けていただきたいと思います。
◇マスク着用などの予防対策続行
ワクチン接種を受けた人が感染した場合、症状が出ないことも多いようです。こうした無症状感染者が、周囲の人の感染源にどの程度なるかは明らかになっていません。もし感染源になる場合、このリスクを完全に無くすには、ワクチン接種者にコロナ検査を定期的に受けてもらうといった対応も考えられますが、あまり現実的ではありません。
私はワクチン接種者もマスク着用などの予防対策を続行することで、このリスクを減らせると思います。マスク着用を続けることで、自分が感染していても周囲への感染拡大を防ぐことができますし、周囲から自分への感染も防げます。欧米の国々では、ワクチン接種後にマスク着用を早々に解除しましたが、それが流行の再燃を招いている可能性があります。
3回目のワクチン接種を受けるイスラエルの医療関係者=2021年08月15日=AFP時事
◇追加接種による免疫増強
10月末に厚生労働省の予防接種分科会では、国民全員へのコロナワクチンの追加接種を決定しました。コロナワクチンは接種後、約半年過ぎると効果が減弱することが明らかになっています。また、最近の研究では、減弱が全ての年齢層に見られることも報告されており、年齢にかかわらず、国民全員に追加接種をするという今回の判断は妥当だと思います。
追加接種は12月ごろから始まりますが、これにより、日本国民の新型コロナウイルスへの高い免疫状態はしばらく維持されるはずです。これに加えて予防対策を続行していけば、第6波は想定よりも、さらに軽く収束させることができるでしょう。
◇中長期的対応の検討も
このように来年春ごろまでのめどは、なんとか付いてきたようですが、その先の中長期的な対応として二つの課題があります。
一つは、ワクチンの4回目以降の追加接種を続けるかどうかです。私は今回の3回目の接種で、とりあえず終わりになると思います。破傷風やB型肝炎の予防に用いられている不活化ワクチンは、3回接種で長期の免疫を獲得することができます。今回使用されているmRNAワクチンは、初めて実用化されたワクチンですが、同様な状況が期待できるのではないでしょうか。長期免疫が獲得できれば、予防対策の大幅な緩和も見えてきます。
もう一つの課題は、新たな変異株の出現です。現在はデルタ株が世界的に流行していますが、今後、感染力がより強く、ワクチン効果を減弱させる変異株が拡大する可能性もあります。その場合は、新たなワクチン開発が必要になってくるでしょう。世界保健機関(WHO)や各国政府は、こうした新しい変異株の発生について厳重な監視を行っています。
このように中長期的な課題はありますが、日本ではワクチン接種が進んだことにより、第6波の新型コロナ流行は小さな波で抑え込めそうです。(了)
濱田篤郎 特任教授
濱田 篤郎 (はまだ あつお) 氏
東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。
(2021/11/04 05:00)
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