医師の紹介
診療内容
中里医師はてんかん治療の現状について次のように話す。「ごくありふれた病気でありながら、てんかんは不治の病と誤解されがちです。てんかんと聞くと多くの人は戸惑いますが、あきらめる必要はまったくありません。しかし専門医による正しい診断と投薬治療で7~8割の患者さんは普通の方と変わらない生活が送れるはずですが、現実には不完全な治療のために悩みをかかえたまま生活するケースが少なくないのが現状です」
同院てんかん科は、2010年3月に誕生した診療科である。欧米では地域ごとに大規模病院にてんかんセンターが設置されているのが通常だが、日本でてんかん科をもつ大学病院は同院だけである。同大学が“日本の脳波学発祥の地”と呼ばれているのも納得できよう。
同科は特殊な外来診療方針をとっており、同大学てんかんセンター(仮称)の設立に向け、関連各科の「てんかん専門外来」と、東北地方の関連拠点病院における「てんかん専門外来」の診療を行う点が特徴だ。同科での診療に際し「かかりつけ医からの予約、紹介状、家族の付き添い、この3つが必須条件です」と中里医師は語る。予約は、紹介元の医師から同院地域医療連携センターへのFAX・電話により成立する。紹介状はすぐ医師の元に届き、実際の受診(2~3か月先)よりも前に前医と連絡をとりあうなどして、外来診察を経ずに入院予約を行うこともあるという。
てんかん診断にあたり、第一歩は詳細な病歴聴取だと中里医師は述べる。「初診では1人1時間をかけて詳しい病歴聴取を行います。その際、医師が受け身で話を聞くだけでは不完全で、発作症状を予測しながら「このようなおかしな感覚が突然、繰り返し出ることはありませんか」と時間をかけて尋ねていきます。なお、てんかん発作の瞬間の様子は、本人は把握できていないことがほとんどです。目撃者の情報を正確に把握するため、そして生活指導を徹底するためにも、初診時は家族の同席が欠かせません」
病歴聴取とあわせて重要なのが脳波検査である。「なかには病歴と脳波所見だけで病型が決まり、薬を選択できる場合もあります。ただし脳波を過信してはいけません。脳波が正常でも薬の継続が必要な患者は少なくありません」(中里医師)
一方、外来診察を繰り返しても正しい診断に至らないこともある。これに対し同院では2010年よりビデオ脳波モニタリング装置を7台導入し「ビデオ脳波モニタリング検査」を開始した。これは約2週間の入院中に脳波とビデオで長時間観察しながら、発作をとらえて診断の精度を上げるものだ。月曜か火曜に入院し、次週の土曜に退院という計12~13日の入院を要する。最初の3泊4日はビデオ脳波モニタリング検査を行うため家族の付添を必要とし、必要に応じて減薬を行う場合もある。この検査は、てんかんなのか、てんかん以外の疾患なのかを根本的に診断する上でも役立つという。(これが終われば家族の付添は不要となる)
検査結果は症例検討会を経て患者・家族に説明される。その後の薬物治療や外科治療は患者個々に応じて組まれ、同院外来もしくは紹介元医で治療が継続される。「当科はかかりつけ医のような一次診療や、神経系の専門医による二次診療ではなく、三次診療という位置づけです。この手順を経ずに三次診療へスキップすると初診の患者さんが集中し、本来の機能が果たせなくなってしまいます。そのため、診断後に治療方針が明確になれば、なるべく早くかかりつけ医に逆紹介することも考えています」(中里医師)
さらに、ハイビジョンテレビによる遠隔会議システムを用いた「遠隔てんかん外来」も同科の特徴の一つだ。これは東日本大震災を機に、気仙沼市立病院との間で始まったものである。使用する機器は、復興支援のために米国 Arkansas 大学のチームから無償貸与された。「遠隔てんかん外来は被災地を結ぶ活動としてスタートしましたが、いずれは複数の病院と連携したいと考えています。片道の移動だけで数時間かかる地域の患者さんには大きな助けとなっています」(中里医師)
中里医師、そして同科の治療方針は、まず「一人で診ないこと」だという。「どんな名医も誤診をしますし、どんな名医も専門領域と非専門領域があります。てんかんの患者さんの悩みは多岐にわたるので、チームで診療するのがベストです。そして二つ目の方針は“発作診ずして、てんかん診るな”。外来で発作の話を聞くだけでは正しい診断ができません。いたずらに外来での薬調整を繰り返すことなく、入院してビデオ脳波検査を行い、正しい診断を得ることが大切だと考えています」
医師プロフィール
1984年 東北大学医学部脳神経外科 研修医・医員
1988年 東北大学医学部助手(脳神経外科)
1989年 University of California, Los Angeles (UCLA) 研究員
1992年 財団法人広南会広南病院脳神経外科 医長
1996年 東北大学医学部助手(脳神経外科)
2000年 財団法人広南会広南病院臨床研究部長
2008年 財団法人広南会広南病院副院長
2010年 東北大学大学院医学系研究科教授(運動機能再建学分野)、東北大学加齢医学研究所教授(神経電磁気生理学分野/兼任)、東北大学病院てんかん科科長(兼任)
2011年 東北大学大学院医学系研究科教授(てんかん学分野に改名)
「てんかん」を専門とする医師
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赤松直樹 医師 (あかまつなおき)
福岡山王病院
脳機能神経センター 神経内科
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井上有史 医師 (いのうえゆうし)
国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター
てんかん科 院長
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大槻泰介 医師 (おおつきたいすけ)
てんかん病院ベーテル
院長
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大沼悌一 医師 (おおぬまていいち)
むさしの国分寺クリニック
理事長、名誉院長
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加藤天美 医師 (かとうあまみ)
近畿大学医学部附属病院
脳神経外科 教授、診療部長
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兼子直 医師 (かねこすなお)
湊病院
北東北てんかんセンター 名誉院長 センター長
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兼本浩祐 医師 (かねもとこうすけ)
愛知医科大学病院
精神神経科 てんかん外来 教授 部長
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亀山茂樹 医師 (かめやましげき)
国立病院機構 西新潟中央病院
機能脳神経外科 名誉院長
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木下真幸子 医師 (きのしたまさこ)
国立病院機構 宇多野病院
脳神経内科(発作科) 医長
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久保田有一 医師 (くぼたゆういち)
TMGあさか医療センター
脳神経外科・てんかんセンター 副院長 センター長
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四宮滋子 医師 (しのみやしげこ)
しのみやクリニック
精神科、心療内科 医師
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馬場啓至 医師 (ばばひろし)
医療法人祥仁会 西諫早病院
てんかん外来
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山本貴道 医師 (やまもとたかみち)
総合病院 聖隷浜松病院
副院長
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吉永治美 医師 (よしながはるみ)
国立病院機構 南岡山医療センター
重症心身障害者センター 副院長 センター長 小児診療部長
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渡辺英寿 医師 (わたなべえいじゅ)
日本医科大学付属病院
脳神経外科 客員教授