兼子直 医師 (かねこすなお)

湊病院

青森県八戸市新井田字松山下野場7-15

  • 北東北てんかんセンター
  • 名誉院長
  • センター長

精神科 脳神経外科 神経内科

専門

てんかん

兼子直

約40年にわたり、てんかんに取り組んでいる日本のてんかん医療の第一人者。日本てんかん学会理事長でもある。てんかんは決して珍しい疾患ではないが、診断には高度な専門性を要する場合もあるため、誤診に苦しむ患者は少なくない。兼子医師が診療にあたる北東北の病院には、正しい診断と治療を求めて、遠方からも患者が訪れる。自身による診療のみならず、厚生労働省が進める「てんかん診療ネットワーク」の立ち上げに尽力するなど、日本全体のてんかん医療の充実と連携の構築にも意欲的に取り組んでいる。

診療内容

兼子直医師のもとには、正しい診断と治療を求めて全国からも患者が訪れる。てんかん患者は全国で100万人もいると推定されるポピュラーな疾患だが、その診断は非常に難しい場合があり、実際に診察してみると難治てんかんとされる症例の中には誤診も多いという。
「てんかんでないのに、てんかんとして治療されている例は非常にあります。そういう方々には当然、抗てんかん薬は効きません。てんかんの3割が難治ですが、そのなかには誤診で、間違った薬を投与されているがゆえに治らない患者さんも含まれます。たとえば、うつ病の薬を飲んでいたせいで痙攣が起きていた患者さんをてんかんと誤診し、10年間治療していた例もあります。その患者さんは、抗うつ薬を止めたら抗てんかん薬もいらなくなります。最も難しいのは、てんかんか否かの鑑別です。てんかんの診断には、目撃情報が必要です。患者本人は発作中の記憶がないからです。その上で、同じパターンの症状が繰り返して起こることが、てんかんの最大の定義。検査の数値で判断できるものではないのです。また、一部の患者の中にはてんかん発作と非てんかん発作とを併せ持つ場合があり、これらを鑑別し、その上で、両方の治療が必要となります。脳波はあくまでも補助診断であり、MRIは形態学的な診断でしかありません。たとえば脳波異常は、てんかん患者の80%にしか出ません。MRIは、脳腫瘍や脳血管障害の有無を調べて、器質的な疾患を除外するため、あるいは部位診断のために撮るものです。それらは命にかかわる疾患であり、てんかんよりも先に治療しなければならないからです」
もっか日本で行われている治療の中心は薬物療法。「診断が正しくて、薬剤の選択も正しくて、患者さんもきちんと薬を飲んでくれれば7割から8割の人は発作が止まります。ただ、薬は対処療法ですから、薬を止めればまた発作が出てきてしまう。ですから、薬は長く服用していただかなくてはなりません。薬をどれくらいの実続けなければならないかは、てんかんの種類によって違います。子どもは比較的、薬を止めやすい。小児てんかんの場合は、3年間くらい発作がなければ減薬を考えます。場合によっては終了できるかもしれません。たとえば、一部のてんかん類型では20才前に発作が出なくなる良性てんかんもあります。一方、抗てんかん薬で比較的容易に発作が抑制されるが、薬を中止すると再発しやすいてんかんもあります。大人は難しい。発作があると交通事故を起こしたり、仕事を失ったりすることになりますから。年代ごとのライフイベントを考慮しながら治療していくのが原則です。治療薬はいいものが出ていますが、1剤ですべてのてんかん発作を止められるものはないので、複数の薬を組み合わせ、試しながら、最適の処方を導き出すのが医師の技量です。しかし患者さんの2-3割は、発作を減らすことは出来ても、完全には止められません。そうした患者さんの一部で、手術により重篤な後遺症が出る可能性が低い方には、脳外科手術を行う場合もあります。といっても、日本に100万人いるてんかん患者さんのうち、年間わずか500から600人だけですが。100万人いる患者さんのうち、薬で発作を止められない人が30万人。そのうちの500~600人というのはまだまだ少ないですよ。最近は、薬物療法も脳外科手術も効かない方に対して、迷走神経刺激術という治療も行われるようになってきています」
そんななか、兼子医師が重視しているのは、QOL(生活の質)を大切にする医療。
「発作だけでなく精神的な事柄や社会的な事柄を考慮した、QOLをメインに置いた治療を心がけています。ですから新患は検査以外に1時間以上かけて診察しますし、再診でも30分かけます。普通は3分から5分ぐらい診て、「じゃあいつもと同じ薬でいいね」となるところですが…。どういう発作がいつ起こったかを記録する発作の日記をつけていただき、現状を聞きながら最適な薬を処方するようにしています。薬の服用時間は、発作が起きる時間帯によって変えないといけません。寝ている時だけ発作が出るのなら、夜寝る前にだけ飲めばいい。でも、患者さんによっては、薬によって発作が起きる時間帯が押し出されて、寝ている時ではなく朝に起きてしまう場合もあります。最善の薬、最善の服用タイミングを見つけることがとても大切です。また、起きているのがてんかん発作なのか、どうなのかも、常に考えないといけません。ストレスでおこる偽発作との鑑別も必要ですし、この二つが合併している場合には薬物療法だけでなく精神的な治療もしないといけなくなります」
患者を大切にするが、患者に義務も負わせる。「治療は、医師と患者さんの契約によって行われるものです。治療者が治療を引き受けると言うことは、最善の治療をしますよと言う義務を負うことでもあります。義務を達成するには、患者さんに本当のことを言ってもらわなければなりません。一方患者さんには、いい治療を受ける権利と共に、果たすべき義務もあります。1つは、周囲に対して、治療を受けに行くことの承認を得なければいけない。もう1つは、治療者の方針に従って、治療に対して最大限の協力をすること。きちんと薬を飲み、きちんと外来にいらしてもらわなければなりません。両者が権利と義務を遂行してはじめて、患者と治療者のいい関係ができるのです」

医師プロフィール

1972年 弘前大学医学部卒業
1978年 英国ブリストル大学薬理学教室客員研究員
1985年 弘前大学医学部神経精神医学講座講師
1987年 英国ケンブリッジ大学薬理学教室客員教授
1989年 弘前大学医学部神経精神医学講座助教授
1995年 弘前大学医学部神経精神医学講座教授
2012年 湊病院名誉院長・北東北てんかんセンター長、弘前大学名誉教授
現在に至る

「てんかん」を専門とする医師