咽頭がん〔いんとうがん〕

 耳鼻咽喉科の扱う領域のしくみは複雑で、耳鼻咽喉科の医師はその領域の外科でもあります。日本耳鼻咽喉科学会は2021年に日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会に改名されました。これまで通り耳鼻咽喉科の医師が、頭頸部がん全般を中心になって治療してゆきます。口の中の舌を含めて、まず耳鼻咽喉科に相談しましょう。

 咽頭がんは部位によって、上、中、下それぞれに分類されます。

■上咽頭がん
 台湾、香港、中国南部やシンガポールなどの中国人に多く、EBウイルスの関与が指摘されています。男性に多く、女性の約2~3倍です。日本では耳鼻咽喉科のがんの約10%で、他の耳鼻咽喉科のがんにくらべ若い人にも発生します。
 上咽頭がんはアデノイドの位置に出現し、出血や耳の症状で発見される場合もありますが、多くは無症状のため、転移進行して頸部(けいぶ)の腫瘤(しこり)として発見されます。
 一般に放射線がよく効くため、転移がなく病変が小さければ放射線療法で治る場合もありますが、すでにリンパ節に転移した状態での受診が多く、上咽頭と頸部のリンパ節転移に対して放射線治療と抗がん薬による化学放射線療法をおこないます。多くは遠隔転移を起こすため、その予防、制御のために化学療法や免疫療法など全身的な治療もおこなわれます。上咽頭は悪性リンパ腫がよく発生する部位でもあります。

■中咽頭がん
 扁桃(へんとう)やその周囲に多く発生します。口腔(こうくう)、舌などのがんと同様、喫煙、飲酒、感染などの慢性の刺激が原因と考えられます。おおもと(原発)の腫瘍が大きくなるまで無症状のことが多く、のどの痛みや違和感、異物感や時に耳への放散痛で発見されることがあります。この時点で頸部のリンパ節の腫瘤(転移)があることも多いです。また、ヒトパピローマウイルス(HPV)が中咽頭がんの発生する危険性を高めることもあきらかになり、近年増加傾向にあります。
 治療は嚥下(えんげ)・発声機能も含めた再建手術の進歩により、手術と放射線療法と化学療法の3つを有効に組み合わせておこないます。
 中咽頭がんに限らず、のどの異常感が長く続いたら一度耳鼻科を受診し、悪化がなくても改善しなければ、その1カ月後に再受診をおすすめします。悪性リンパ腫も扁桃に多く、片方の扁桃が極端に大きくなった場合は専門医を受診してください。

■下咽頭がん
 下咽頭は食道の手前の部分です。飲酒の多い人に発生しやすいとされます。女性では鉄欠乏貧血の人に発生する場合もあります。そのほか、頸部への放射線治療後30年ほどして発生することがあります。症状はのどの違和感、痛み、食べ物が飲み込みにくいなどです。極早期では、専門医でも発見できない喉頭(こうとう)の裏側にある場合がありますが、ファイバースコープの進歩によって早期診断が可能となりつつあります。
 治療は手術が主体で、放射線療法、化学療法と組み合わせた集学的治療がおこなわれていますが、喉頭と密接しているため、喉頭がんと同じく進行した場合、喉頭摘出になる場合があります。

 耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域のがんに対するこれらの治療は麻酔法や摘出後の再建を含む手術治療、さらに化学療法ではその副作用の軽減法を含め、着実かつ劇的に進歩しています。咽頭や喉頭は、呼吸のみならず、食事の通り道であり、嚥下・発声機能と密接に関連するため、術後のQOL(生活の質)を考慮したリハビリテーションも含めた治療の選択が大切です。手術や放射線、抗がん薬などの化学療法がありますが、それらを効率よく組み合わせて治療をおこないます。近年医学の進歩で、抗がん薬は多く承認されましたが、抗がん薬のみでは根治的治療を目指すことはできません。放射線治療や手術と併用して治療効果を高めます。これらの治療法で十分な効果が得られない場合(遠隔転移がある場合や腫瘍があまりに大きい場合など)、病気の進行を遅らせる治療をおこなうことがあります。そのときに用いられるのが免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬で、外来通院で治療できることも多くあります。免疫チェックポイント阻害薬は患者自身の免疫を活性化させることで、がん細胞を自己免疫により攻撃します。分子標的薬はがん細胞が増殖するスイッチをとめる特異的な効果をもつ薬です。どの治療にも合併症や副作用があります。主治医とよく相談して納得できる治療方針を決めましょう。いずれにしても早期発見やそれ以前の予防が大切です。

(執筆・監修:独立行政法人 国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター 人工臓器・機器開発研究部長 角田 晃一
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