全身性エリテマトーデス(SLE〈systemic lupus erythematosus〉ともいう)は、自己免疫異常を基盤として発症し、よい状態と悪化をくり返す慢性の炎症性疾患です。原因は不明ですが、かかりやすい体質・素因と紫外線やウイルス感染、薬剤などの誘因が重なり発病するとされています。20~30代の女性(男女比1対9)に多く、若年者、高齢者にも発病します。出産後に発症することが多いのも特徴です。
[症状]
全身倦怠(けんたい)感や疲労感などとともに発熱、関節痛、紅斑(こうはん)、レイノー現象(寒冷や刺激、精神的ストレスなどによって手指などの皮膚が白色となり、紫紅色、赤色の3段階の変化でもとへ戻る現象)などで発症します。
紅斑は顔面にみられる蝶形紅斑が特徴的ですが、同じような紅斑は前胸部、手指、手のひらなどにもみられ、日光過敏症の人に多くみられます。紅斑は、急性の紅斑のみならず亜急性紅斑、円板状紅斑のこともあります。脱毛や皮膚潰瘍や口腔(こうくう)内潰瘍もみられます。関節痛、筋肉痛もよくみられますが、関節破壊はまれです。
心臓、肺の症状では、胸膜炎と心外膜炎がしばしばみとめられ、まれに肺出血、肺梗塞、肺高血圧症などがみられます。腎臓はもっともよくおかされる臓器です。尿や腎機能の検査、時に腎生検の検査が必要となります。
ネフローゼ症候群の状態では浮腫がみられます。
精神・神経症状は、てんかん様のけいれん、意識消失発作、うつ状態、興奮状態、不眠、神経症、情緒不安定など多彩です。また、まひや髄膜炎、視力障害、片頭痛などをみることがあります。その他、リンパ節腫大、月経異常、ループス膀胱(ぼうこう)炎(自己免疫の問題によって起こる間質性膀胱炎)などもみられます。
[検査所見]
赤沈亢進(こうしん)、貧血、白血球減少、リンパ球減少、血小板減少がよくみられ、自己免疫性溶血性貧血や免疫性血小板減少症の病態もみられます。また、抗核抗体をはじめとする自己抗体が数多く出現します。抗核抗体のなかでは抗DNA抗体や抗Sm抗体が特異的です。
そのほか、梅毒反応偽陽性、抗リン脂質抗体(ループス抗凝固因子、抗カルジオリピン抗体など)、クームス試験、リウマトイド因子などの自己抗体がみとめられます。血清低補体価も特徴的で、抗DNA抗体高値とともに病気の活動性を示唆します。尿の検査では尿たんぱくや細胞の成分が検出されます。
[診断]
臨床症状と検査所見により診断します。診断には次の基準(ヨーロッパリウマチ学会/アメリカリウマチ学会、2019年)が用いられます。
[亜型]
薬剤誘発性ループスでは、ある種の薬剤の使用により全身性エリテマトーデスに類似した症状をみます。使用している薬剤を中止すると症状も消失します。自己免疫性肝炎の一つであるルポイド肝炎は肝臓がおもに障害されますが、同時に全身性エリテマトーデスにみられる症状や検査所見をみます。
新生児ループスエリテマトーデスでは、新生児にエリテマトーデスにみられる発疹(ほっしん)や血小板減少、溶血性貧血、先天性に脈がみだれる病気(先天性心ブロック)がみられます。これは母親がもっている抗核抗体のなかの抗SS-A抗体などが胎盤を通過して、胎児および新生児に障害をあたえる病気です。
抗リン脂質抗体症候群では、ループス抗凝固因子、β
2グリコプロテイン抗体やカルジオリピン抗体などの抗リン脂質抗体をもっている例では血栓症や習慣流産、血小板減少などをきたします。
[治療]
抗炎症療法と免疫抑制療法により、できるだけ早くよい状態(寛解〈病気による症状がおさまっている〉状態)にし、その状態を長く続け社会復帰できることを目標に治療します。治療法には、ヒドロキシクロロキン、非ステロイド性抗炎症薬、グルココルチコイド、免疫抑制薬、生物学的製剤(ベリムマブ)、アフェレーシス療法などがありますが、病気の状態によって治療が異なります。
最近の治療の原則として、どの病型においてもヒドロキシクロロキンの使用が推奨されています。ヒドロキシクロロキンは抗マラリア薬として長年使用されてきましたが、海外では
関節リウマチや全身性エリテマトーデスに対する治療薬としても使用されてきました。わが国では2015年に全身性エリテマトーデス・皮膚エリテマトーデスに対する適応を獲得しました。また、「全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019」では、「ヒドロキシクロロキンは病態や臓器病変にかかわらず、禁忌事項に注意しながら全例で投与を考慮する」と記載され、第一選択薬と位置付けられています。本剤では網膜症等の重篤(じゅうとく)な眼障害が知られており、眼科医との連携が安全な使用に必須です。ヒドロキシクロロキンは、網膜症(ただし、SLE網膜症を除く)あるいは黄斑症の患者またはそれらの既往歴のある患者には禁忌です。
非ステロイド性抗炎症薬は、解熱、鎮痛の目的で経口薬(のみ薬)あるいは坐薬(ざやく)で用いられます。抗リン脂質抗体症候群など血栓症を起こしやすい状態の場合にアスピリンが少量用いられることがあります。
グルココルチコイドは、広範囲にある皮膚症状、腎障害、精神・神経症状、
間質性肺炎、
胸膜炎、心外膜炎、溶血性貧血、免疫性血小板減少症、急性腹症(突然の激しい腹痛)などに対して経口薬で中等量から多量用いられます。時に、グルココルチコイドパルス療法(メチルプレドニゾロン500~1000mg/回、静脈注射、3日間連日投与)がおこなわれます。また、重症型の腎炎などにはシクロホスファミドの大量間欠静注療法もおこなわれます。しかし、最近は不妊などの副作用のないミコフェノレートモフェチルによる治療も推奨されています。
皮膚症状に対しては、クリームや軟膏(なんこう)などの外用薬が局所的に使用されることもあります。
病気の状態がよくなると、グルココルチコイドはゆっくりと減量します。グルココルチコイドには種々の副作用がみられますので、治療中は定期的にチェックをし、注意します。グルココルチコイドを使用しても十分な効果がみられなかったり、グルココルチコイドの減量がスムーズにいかなかったり、グルココルチコイドによる大きな副作用がみられたりする場合には、免疫抑制薬(アザチオプリン、シクロホスファミド、ミゾリビン、タクロリムスなど)や血漿(けっしょう)交換療法が用いられます。そのほか、レイノー現象や末梢循環障害に対しては末梢血管拡張薬や抗血小板薬などが用いられます。腎不全に対して血液透析がおこなわれます。
ベリムマブ(遺伝子組換え)は、可溶型Bリンパ球刺激因子[BLyS、別名:B cell activating factor belonging to the TNF family(BAFF)およびTNFSF13B]に選択的に結合し、その活性を阻害する完全ヒト型抗BLySモノクローナル抗体製剤です。グルココルチコイドや免疫抑制薬などによる適切な治療をおこなっても、疾患活動性を有する場合は本剤の追加投与の対象となります。
[経過]
寛解状態(よい状態)ができるだけ長く続くよう治療します。悪化させるような原因(紫外線照射など)となるものについては日常生活においても注意します。経過中は、感染症やグルココルチコイドによる副作用(消化管潰瘍、
糖尿病、
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、副腎機能不全など)、免疫抑制薬による造血器障害、シクロホスファミドによる出血性膀胱(ぼうこう)炎、長期経過に伴う
動脈硬化症、
高血圧、悪性腫瘍や大腿(だいたい)骨頭に多くみられる無菌性骨壊死(えし)などの合併症に注意します。
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