「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

寒い季節に流行する理由
~ヒトの行動変容、大きな原因に~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター教授)【第10回】

 新型コロナの流行は寒い季節に拡大する傾向があります。ヨーロッパや北米では気温が下がる2020年10月から、日本でも11月から感染者数が増加しました。こうした気温の低下による流行拡大は、新型コロナに限らずインフルエンザなど飛沫(ひまつ)感染を起こす病気に共通して見られるものです。なぜ、気温の変化が流行に影響するのでしょうか。今回は新型コロナ流行と気候の関係について解説します。

緊急事態宣言再発令後初めての週末、東京・渋谷を行き交う人たち=2021年1月9日、東京都渋谷区

 ◇ヒトは熱帯性の動物

 気候と病気の関係は古代ギリシャの医師で、医学の父と呼ばれるヒポクラテスが提唱しています。彼は代表的著作「空気、水、場所」の中で、「病気は住む土地の気候、地形など環境条件の影響を受ける」と記載しています。この環境条件を重要視する考え方は19世紀まで医学の主流とされてきましたが、20世紀に微生物学や病理学など、近代医学が発展するに従って、隅に追いやられていきました。しかし、最近では気候と病気の関係も再び見直されています。

 そもそも、ヒトという動物は熱帯で誕生し、その環境に適応するように初期進化してきました。このため、寒い気候というのはヒトにとって病気を起こす大きな原因になります。例えば、気温の低下で体が冷えてくると、血管が収縮して血圧が上がったり、狭心症の発作を起こしたりします。気道の粘膜が刺激されて、ぜんそくの発作を起こすこともあります。さらに感染症の中でも、新型コロナのように飛沫感染する病気は、寒さが流行の大きな原因になります。

 こんな話をすると、「熱帯で暮らした方が感染症にかかりやすいのではないか?」と疑問を持つ人も少なくないと思います。たしかに食中毒のように経口感染する病気や、蚊に媒介されるマラリアやデング熱などは熱帯に多く発生しますが、飛沫感染する病気は温帯の寒い季節に多くなるのです。

 ◇寒さがウイルスに与える影響

 では、寒くなるとなぜ飛沫感染症が増えてくるのでしょうか。

 まず、病原体であるウイルスへの影響を考えてみると、気温の低下でインフルエンザウイルスなどの生存期間が延びるとするデータがいくつかあります。新型コロナウイルスについても、香港大学の研究者が調査を行っており、気温の低下でウイルスの生存期間が長くなるという結果を出しています。

 飛沫感染を起こすウイルスは接触感染によっても拡大します。感染者の排出したウイルスが机の上などに付着し、それに接触して感染する経路です。寒い季節は、机の上などでウイルスが長い時間生きているため、接触感染のリスクも高くなると考えられます。これも寒い季節に流行拡大する原因の一つと言えるでしょう。

 ◇寒さがヒトに与える影響

 私はウイルスよりも、寒さがヒトに与える影響が大きいと考えています。

 まず、寒さで体が冷えると、気道周囲の血管が収縮したり、気道粘膜が障害されたりして、ウイルスが侵入しやすくなります。

 さらに、寒さはヒトの行動変容も起こします。寒くなると屋外で過ごすよりも、屋内で過ごす時間が長くなります。また、寒い空気を入れたくないため、換気をあまりしなくなります。つまり密閉した空間に多くの人が密集するわけです。これに大声を出すとか、歌を歌うといった行動が加わると、まさに3密の状態が形成されます。この中に新型コロナの感染者がいれば、周囲の人に感染させるリスクは高くなるのです。これに加えて寒い季節は水が冷たくなるので、あまり手を洗わなくなり、接触感染を増やす原因にもなります。

 このように、寒さによるヒトの行動変容が、新型コロナの流行を起こす大きな原因と考えます。

 ◇乾燥の影響は少ない

 日本では冬に寒くなるとともに乾燥もします。このため、乾燥が冬に飛沫感染症を増やす原因と考える人も多いと思います。

 湿度がウイルスの生存期間に与える影響については、多くの研究がありますが、乾燥によりウイルスの生存期間が長くなるとは言えないようです。ただし、乾燥しているとウイルスの飛散する距離が長くなることはあるかもしれません。一方、ヒトの側に乾燥が与える影響としては、気道の粘膜を損傷するなどがありますが、あまり大きいものではありません。

 そもそも、日本の冬は乾燥していますが、ヨーロッパの冬は雨の多い時期で、それほど乾燥してはいません。そんな気候でも飛沫感染症が流行するわけですから、乾燥は新型コロナの流行に大きな影響はしていないと考えた方がいいようです。

独自の「緊急事態宣言」が出された愛知県。赤くライトアップされたテレビ塔(左)とオアシス21「水の宇宙船」=2020年8月6日、名古屋市

 ◇なぜ日本の夏に流行したのか

 2020年7月から8月に、日本では新型コロナの第2波の流行が起きました。これは真夏の出来事です。12月には南アフリカで変異株による流行が発生しており、これも真夏の流行でした。新型コロナウイルスは寒い季節に流行しやすいのに、なぜ夏に流行が起きたのでしょうか。

 新型コロナウイルスのように新たに流行し始めたウイルスは、その性質がまだよく分かっていません。飛沫感染症なので寒い季節の方が流行しやすいでしょうが、暑い季節でも3密の場所が数多く存在したり、新たな変異株が生まれたりすると、気温にかかわらず流行が拡大するようです。

 ◇寒い季節に注意する点は

 このように新型コロナは気温にかかわらず流行しますが、とくに冬の寒い季節は要注意です。この季節の流行を抑え込むことが、医療の逼迫(ひっぱく)を防ぐためには、とても大切です。それには、寒くても部屋の換気に努めることや、温水などを使って手洗いをすることが、この季節ならではの流行対策になります。また、年末年始は食事会や初詣など、人ごみに出かける機会が多くなりますが、新型コロナの流行中は、できるだけそれを避けることです。

 こうした対策はインフルエンザの流行対策としても、毎年、冬に行っていただきたいものですが、今年はとくに注意すべきなのです。

 さらに、ヒトは熱帯性の動物であることを忘れないようにして、寒い季節は食べ過ぎ、飲み過ぎ、疲労をためることはできるだけ避けるようにしましょう。(了)


濱田 篤郎 教授

 濱田 篤郎 (はまだ あつお) 氏
 東京医科大学病院渡航者医療センター教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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