岩田淳 医師 (いわたあつし)

東京大学医学部附属病院

東京都文京区本郷7-3-1

  • 神経内科
  • 講師 外来診療担当副科長

神経内科 内科

専門

臨床神経学、認知症の診療および臨床研究、神経科学、分子生物学

岩田淳

岩田淳医師は、神経内科の専門外来「メモリークリニック」にて神経内科医師としてアルツハイマー病(AD)やレビー小体病、前頭側頭葉型萎縮症等の疾患の診断、治療に当たる。特に超早期段階でのAD、レビー小体病の診断が専門。一方で同科に設立された「分子脳病態科学講座」おいて分子生物学的なアプローチによる認知機能障害を伴う神経変性疾患の病態解明に取り組む。エピジェネティクスを通じた神経変性疾患の解析を行い、ADの根本治療薬の開発等先端的な取り組みを行っている。

診療内容

同科ではアルツハイマー病をはじめとした認知症疾患のための専門外来「メモリークリニック」を開設、神経内科医師と精神科医師とが合同で診療する体制を取っており、岩田医師は神経内科医師として診療に当たっている。検査は「認知機能検査」「血液検査」「MRI」「脳血流シンチグラム」「脳脊髄液検査」などを施行し、より正確な診断を目指している。診断後はすみやかに地元の医院に引き継ぐ形で無理のない定期受診を可能にしている。現在、日本における認知症の患者数は250万人と推計され、85歳以上のお年寄りの4人に1人が認知症であるといわれている。認知症の9割を占めるのはアルツハイマー型認知症であり、そのほかに脳の血管の詰まりや出血が原因となる脳血管性認知症や遺伝子の異常が原因となる若年性アルツハイマー病等がある。
1984年にアルツハイマー病の診断基準がNINCDS-ADRDA(米国立神経疾患・脳卒中研究所とアルツハイマー病・関連障害協会)によって作られたが、それから28年が経ち、アルツハイマー病研究は目覚ましい進歩を遂げ、治療薬の開発にも成功している。アルツハイマー病の患者の脳内では神経伝達物質であるアセチルコリンが減少し記憶障害などを起こしていると考えられており、そのアセチルコリンの分解を阻害するよう働く薬剤が主流である。現在、日本ではドネペジル塩酸塩、ガランタミン、リバスチグミンが発売され、メマンチン(神経細胞の過剰興奮からくる神経細胞死を防ぐ)を含め、認知症治療薬として4種類が発売されている。ただ、いずれも早期に服用して進行を抑制することを目的としており、アルツハイマー病の症状を改善したり、根本的に治療する薬ではない。そうした現状を踏まえ、治療可能な早期の段階でアルツハイマー病を診断し治療することが最重要課題の一つであるとされ、「先制医療」への期待が高まっている。実際に2011年にはNIA-AA(米国立老化研究所と米アルツハイマー病協会)により新診断基準が設定され、血液などの組織中のバイオマーカーなどを調べることで発病リスクの高い人を特定するといったことも打ち出されている。実際に海外では「発症予備軍」を対象にした臨床試験も始まっている。
ただ、現状は日常生活に支障をきたし、症状がかなり進んでから受診するケースが多く、そうなってからでは脳神経系に不可逆的な障害が生じており、その障害を取り除くことは難しい。岩田医師も認知症として症状が現れる時期は、発症して病態が推移していくなかの最後の部分であるとし「アルツハイマー病理解の概念を変えていかなければならない時期にきている」としている。岩田医師の所属する同科に設立された「分子脳病態科学講座」では認知症性疾患の臨床、病理、分子生物学的アプローチの融合を目指し、認知機能障害を伴う神経疾患をターゲットした研究を軸に、世界をリードする機関としての期待が高い。岩田医師は分子生物学的なアプローチにより認知症性疾患の病態解明はもとより診断法の開発や治療法や治療薬の開発等の研究を行っている。
分子生物学からのアプローチ法は1980年代以降に発展した分子生物学の発展が寄与するところが大きく、岩田医師はいち早くその手法を取り入れ「神経変性疾患における系統的網羅的エピジェネティクス解析」をテーマに取り組んでいる。エピジェネティクス(epigenetics) の“エピ”とは“後生の”“後から生まれた”という意味があり、後成遺伝学と訳される。塩基の配列を変えずに遺伝子を発現させたり、させなかったりするメカニズムの存在が明らかになり、そのような塩基配列に依らないで遺伝子の発現のon、offを変化させるメカニズムことをエピジェネティクスという。ヒトの脳は生まれた時から持つ遺伝子情報設計図を利用して、常に最適化しながらダイナミックに変化しつつ成長するが、その過程で遺伝子情報設計図はどのように利用されているのか、とくに老化や成長過程における設計図のエピジェネティクスな変化や異常がアルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患の発症原因とどのように関係しているか、岩田医師はその解明に向けて研究を進めている。アルツハイマー病やがんなどの疾患もじつはこのエピジェネティクスの異常が指摘されており、今後、研究が進めば、アルツハイマー病の分子病態そのものを標的にした治療薬の開発も夢ではない。実際にアミロイドβ(老人斑の成分物質)の生成を抑制するβ、γセクレターゼ阻害薬や、老人斑除去を標的としたアミロイドβの免疫療法などが開発されている。しかしながら、現状では臨床試験での効果が確認できず、アルツハイマー病の根本治療薬はいまだ実現していない。
将来、アルツハイマー病の根本治療薬が開発されたときには、アルツハイマー病のリスクの高い正常者に対して抗体療法などを施行することでアルツハイマー病の発症を未然に防ぎ、一方、発症者にはセクレターゼ阻害薬などで進行を遅らせることが可能となり、重度のアルツハイマー病患者は大幅に減少するのではないかと岩田医師はいう。また、アルツハイマー病はヒトの老化に伴うさまざまな悲しみに対する防御機能としての一面を持つのではないかとも岩田医師はいう。認知症になってしまえば、肉体の衰えや家族や友人、そして自らの死への悲しみや恐怖を感じなくてすむ。そうした疾患の根本治療に挑戦するということは、同時にそうした悲しみや恐怖を共に背負っていく覚悟が必要であるという。高齢化による認知症の患者数の増加は世界的な問題ともなっており、患者の人間性の回復に大きく寄与する根本治療薬の一刻も早い開発が待たれている。岩田医師らが取り組むエピジェネティクスの成果を取り入れた先進の研究成果に大きな期待が寄せられている。

医師プロフィール

1993年 東京大学医学部卒業、東京大学医学部附属病院 内科研修医
1994年 横浜労災病院 神経内科研修医
1995年 日本赤十字社医療センター 神経内科専修医
1996年 NTT関東逓信病院 神経内科専修医
1997年 東京大学医学部附属病院神経内科 医員
1998年 東京大学大学院医学系研究科大学院
2002年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了博士(医学)、日本学術振興会特別研究員
2003年 スタンフォード大学ポスドク
2005年 東京大学大学院医学系研究科神経内科 研究拠点形成研究員
2007年 東京大学大学院医学系研究科神経内科 特任助教
2008年 東京大学大学院医学系研究科分子脳病態科学 特任准教授として現在に至る
2010年 (専)科学技術振興機構戦略的創造事業「さきがけ」研究員
2014年 (専)科学技術振興機構戦略的創造事業「さきがけ」研究員
2015年 (兼)東京大学医学部附属病院神経内科講師
2015年 (兼)科学技術振興機構戦略的創造事業「さきがけ」研究員
2016年3月 同退職
2017年4月 (専)東京大学医学部附属病院神経内科講師

「認知症」を専門とする医師