朝田隆 医師 (あさだたかし)

メモリークリニックお茶の水

東京都文京区湯島1-5-34 お茶の水医学会館4F

  • 院長

精神科 神経科

専門

臨床精神医学、認知症疾患、脳機能画像を専門分野とし、とくに老年学、アルツハイマー病に詳しい

朝田隆

朝田隆医師は、アルツハイマー病を中心に認知症疾患の基礎と臨床に携わり、脳機能画像診断の第一人者。SPECT画像とMRI画像を融合して用いて脳の萎縮を伴わずに血流が低下している部位を検出する画像処理手法とソフトウエアFUSEの開発を行って、認知症のより確実な早期診断を可能にしている。音楽療法、絵画療法による脳機能改善効果についての調査研究のほか、運動や食事、30分以内の昼寝等生活改善による認知症予防効果を世界で初めて明らかにし注目を集める。若年性及び老年性認知症患者の有病率調査等大規模実態調査に尽力し、認知症対策推進にも貢献する。認知症患者の家族や介護、福祉関係で働く人々に向けて講演も積極的に行っている。

2015年4月よりメモリークリニックお茶の水をオープン。

診療内容

人の脳細胞は誕生以降は減少し続け、新たに発生することはないとされてきたが、近年、その学説を覆すような発見がなされ、人の脳では神経細胞が新生すること明らかにされてきた。実際にラットの実験では学習、運動、豊かな環境が神経の新生を促進することが報告されている。こうしたことを背景にアルツハイマー病の認知リハビリテーションにおいても大きな変化が起こっている。
アルツハイマー病の超早期の介入・予防、認知機能のリハビリについても積極的に取り組んでいる朝田医師は脳の代償作用について注目し「アルツハイマー病においては大脳全体が病気で侵されるわけではないので、ほとんど無傷であったり、軽度障害ですむ部位もあります。そうした場所の神経細胞に働きかければ、代償作用が生じる可能性が大きい」としている。(朝田医師)
朝田医師はアルツハイマー病患者に特徴的な脳血流パターンをSPECTにより明らかにする研究を重ねてきたが、その中で血流低下をする部位と、逆に血流が有意に増加する部位が少なからずあることがわかってきた。増加した部位については、失った機能を補完するための代償機能が働いた可能性があるとしている。また、アルツハイマー病治療薬のアリセプトの服用によって前頭前野の血流低下が進行しないことを確認し、前頭前野の機能保持に薬物治療の効果があることを指摘している。前頭前野はワーキングメモリーを担い、想起に関して最初に引き金を引く部位であり、遂行機能にも関わることなどが明らかにされている。前頭前野はアルツハイマー病患者の脳では症状が進んでも比較的その機能が保たれる部位でもあることから、リハビリテーションのターゲットとなりうる期待が大きいとしている。
これまでのアルツハイマー病のリハビリの多くは言語を媒介として記憶そのものを標的としてきたが、残念ながら満足できる効果は得られていない。一方、音楽や絵画を介した療法については注目されてこなかった。左右の脳の分担ということでは言語に関しては概して左脳が、音楽・絵画は右脳が関係するといわれている。歌を歌ったり楽器を演奏したり、絵画を描くことで右脳に刺激を与えることで脳の代償機能を促す可能性があり、音楽や絵画によるリハビリについてもっと注目してよいはずと朝田医師は言う。
そこで朝田医師は初期アルツハイマー病患者を対象に、有酸素運動と特殊な合奏療法、絵画療法を半年間にわたり試行し、こうした療法を行わないグループとの比較研究を行ったところ、合奏療法と絵画療法を施行した群では有意な改善が認められ、初期アルツハイマー病患者に対する音楽や絵画によるリハビリの効果があることを明らかにした。
我が国の高齢化の進展とともにアルツハイマー病患者数もまた、加速度的に増加していると考えられる。しかし、近年、こうした現状に即した形での実態調査が行われていないこともあり、朝田医師はアルツハイマー病の全国的な実態調査を行った。厚生労働科学研究費補助金事業の認知症対策総合研究事業「認知症の実態把握に向けた総合的研究」(2010年度)がそれで、朝田医師が主任研究員として携わり、認知症有病率調査等を1年かけて行った。その結果はそれまでの先行研究の数値をはるかに上回るものとなり、大きな衝撃を持って迎えられた。
調査は茨城県利根町や愛知県大府市など全国7ヶ所で認知症高齢者数(有病率、症状別分布、所在の推計)を推計するという目的で行われた。65歳以上の地域住民を対象に全地域で合計約5,000人について1次調査を行い、認知症の疑い(CDR0.5以上and/or MMSEが23点以下)のある人を抽出し、2次調査において、医師や臨床心理士ら専門職が家庭訪問したり、病院や介護施設に訪問して診察、採血をはじめ一般身体・神経学的検査、PAS(Psychogeriatric Assessment Scale)による構造化面接(認知症、うつ、脳卒中診断)、各種認知症の診断を行った。
その結果、65歳以上人口における認知症有病率は15.7%(12.4%~22.2%)となり、どの先行研究と比べても高い数値となった。この理由として朝田医師は、日本の高齢化率の急激な上昇が有病率に反映しているためとしている。認知症の最大の危険因子は加齢であり、年齢層別の認知症の出現率は5歳ごとに倍増するという報告もあり、高齢化率の上昇はとりもなおさず認知症の有病率を押し上げることになる。
厚生労働省では65歳以上の高齢者における有病率を8~10%と推定し、2010年で226万人、2020年で292万人と推計している(厚生省「1994年痴呆性老人対策に関する検討会報告」)が、朝田医師の調査結果をもとに算出すると約2倍の患者数となり、認知症対策が火急を要することを改めて示唆している。同時に、高齢化に伴う認知症患者数がこれほど急激に増加しているとは予想されていず、認知症対策を根本から見直さなければならないともいわれている。
朝田医師は今後、都市部における同様の調査を行って本調査結果と比較検討することにより、全国レベルの有病率推定を行いたいとしている。
朝田医師はまた、この調査に先立ち、若年性認知症についての疫学調査も行っている。「若年性認知症の実態と対応の基盤整備に関する研究(2006年~2008年に調査、2009年3月に発表)」がそれで、若年性認知症の有病率を算出するほか、当事者・家族が直面する問題点を明らかにすることを研究の目的としている。同調査において全国5県(熊本県、愛媛県、富山県、群馬県、茨城県の全域)で疫学調査を行った結果、推定された18~64歳人口における10万人対の患者数は47.6人(男性57.9人、女性36.7人)で全国における推定患者数は3.78万人と推定される。
基礎疾患として脳血管障害(39.8%)、アルツハイマー病(25.4%)、頭部外傷後遺症(7.7%)、FTLD(=前頭側頭葉変性症3.7%)、アルコール性認知症(3.5%)、DLB/PDD(レビー小体型認知症/認知症を伴うパーキンソン病 3.0%)がある。
若年性認知症とは発病年齢と調査時点における年齢がいずれも65歳未満の場合をいうが、患者の約8割は50歳以上であり、推定発症年齢についても同様の傾向がある。40歳代以下での発症は約3割であり、症状の分類では軽度、中等度、重度それぞれ3分の1程度ずつに分けられる。日常生活動作(ADL)については自立できている人は半数以下である。
合併症では高血圧、糖尿病、高脂血症、てんかんが多く、特に高血圧は3割近い症例があり、糖尿病も1割以上と多い。
生活の場は自宅と病院・施設との比率はほぼ等しく、介護保険の要介護認定については、申請なしが3分の1以上と多く、要支援1から要介護5まで満遍なく分布していた。要介護3以上が3分の1を占めた。
日本では認知症介護についての制度や社会的取り組みについては整備されてきており、世界のトップレベルに達したといわれる一方で、若年性認知症に対策については一向に進んでいない状況があるが、そうしたことを裏付ける調査結果となった。朝田医師は医療はもとより、支援対策等の早急の取り組みが求められると警鐘をならしている。
朝田医師は「認知症は脳神経の疾患ではあるが、それ以上に家族や社会経済への影響が大きい」として、社会問題としての側面にも早くから着目し、精神科医としての視点からアプローチしている。つくば市内の認知症に関心のある内科医やケアマネージャー、保健師、地域包括支援センターの職員らと定期的にミーティングを行い、精神科医の果たすべき役割についても検討を重ねている。そこからわかってきたことは精神科に要望されていることは早期の正確な診断と、精神症状や暴言・暴力などに対する対応策等であるとしている。
精神科病床約35万床のうち、認知症の入院患者がその約15%を占め、統合失調症に次いで第2位となった今、精神科医も認知症に正面から向き合わなければならない時期にきていると朝田医師は言う。「認知症に本格的に取り組んでいる精神科医はほとんどいないのが現状で、むしろ脳神経外科医、老年内科医といった方々が認知症治療に熱心に取り組まれている印象があります」とし、精神科医師が最後の砦となって支えられるよう駆け込み寺的な存在となれるよう努めていきたいと語っている。

医師プロフィール

1982年 東京医科歯科大学医学部卒業、石川芦城病院、東京医科歯科大学神経科、甲府市立病院神経内科勤務
1984年 山梨医科大学精神神経科助手
1988年 英国オックスフォード大学老年科留学
1989年 山梨医大講師
1995年 国立精神・神経センター武蔵病院医長、老年精神科医長
2000年 同院リハビリテーション部長
2001年 筑波大学臨床医学系精神医学教授、筑波大学附属病院精神神経科グループ長、筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻精神病態医学分野教授
2014年 東京医科歯科大学医学部附属病院 特任教授 (現任)
2015年4月 筑波大学 名誉教授 、 医療法人社団創知会 理事長 、 メモリークリニックお茶の水 院長

「認知症」を専門とする医師