三村將 医師 (みむらまさる)

慶應義塾大学病院

東京都新宿区信濃町35

  • 精神・神経科
  • 教授

精神科 神経科 内科

専門

老年期うつ病、認知症、高次脳機能障害

三村將

老年精神医学と神経心理学を専門とし、老年期うつ病、認知症、もの忘れ、頭部外傷などのエキスパートとして知られている。テレビや本などメディアへの露出も多い。治療にあたっては院内他科との連携だけではなく、患者が生活している地域との連携も取り入れ、さらに専門的治療が必要な患者に対しては、専門施設との連携も積極的におこなっている。2011年3月に起きた東日本大震災後には慶應義塾大学医学部第9次医療団のメンバーとして、被災地の支援活動に参加。被災者の心のケアにあたった。

診療内容

うつ病の治療では、まずうつ病か、あるいは躁うつ病(双極性障害)や適応障害、認知症、統合失調症など、他の精神科の病気かを的確に見きわめることがもっとも重要である。これらの病気はそれぞれ治療や対応が異なる。その上で、うつ病に対しては、薬物療法、精神療法、環境づくりが3本の柱になると三村医師は言う「まず薬物療法で中心になるのは抗うつ薬です。おもに第一選択薬として使われているのが「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」と「SNRI(選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)」という種類の薬です。これらは副作用が比較的少ないため、第一選択薬として使用されます。2009年からは「NaSSA(ノルアドレナリン・セロトニン作動性抗うつ薬)」と呼ばれる種類の薬も第一選択薬として使われはじめました。これらSSRIやSNRI、NaSSAで効果が十分でない場合には従来からある“三環系抗うつ薬”や“四環系抗うつ薬”も治療の選択肢として重要です」
老年期のうつ病の場合は、抗うつ薬の使用にも注意が必要だという。それは加齢による肝機能の低下に加え、他の体の病気の治療薬を服用しているケースが多く、その薬との飲み合わせに注意しなくてはいけないからだ。そのため他に飲んでいる薬がある場合には、その薬名をきちんと医師に伝えることが大切だと三村医師は言う。
「次に二番目の柱である精神療法ですが、一般の支持的な精神療法に加えて、より専門的な治療法として、認知療行動法や対人関係療法があります。認知行動療法は、ひと言で言えば考え方の悪い癖を修正していくものです。具合が悪いと、極端なネガテイブ思考から抜けられません。そこで、かたよったひとつの見方だけではなく、他の見方がないかということを考えながら、バランスを取るトレーニングをしていきます。対人関係療法は、自分と関係の深い家族や交際相手など、重要な他者との関係性に焦点を当てて問題を改善していくものです」
患者が高齢者の場合、これまでの長い人生の中で考え方のパターンは定着しており、場合によっては強い自負を持っているため、より若い患者に比べると、考え方を変えていくことは簡単ではない。
「最後の柱である環境づくりでは、まず治療の初期の段階では、十分な休養がとれる体制を整えることが大切です。心も体も十分に回復してくるのを待ちます。ゆったり休めない状況にある場合、しばしば休職や入院など、きっかけとなっている要因から物理的に離れることも大切です。同院でも2~4週間程度の休息入院をお勧めするケースも多いです。ある程度時間をかけて、心身が回復してきたと判断したら、適度な活動や運動、刺激を取り入れていきます。これは心身ともに動かないままでいると、かえって機能が低下してしまうからです」(三村医師)
高齢者では、ある程度回復してきた段階で、地域のコミュニティなどに参加するのもよいことだという。良好な人間関係が築かれていくことにより、喪失体験によるストレスが軽減され、これが脳にも適切な刺激となる。ところで、薬物療法や精神療法、環境調整などをおこなっても治療効果が十分でない場合、もう手立てがないのだろうか。
「薬物療法をいろいろ工夫しても症状が十分に改善しないケースを難治性うつ病と言います。このような場合は、修正型電気けいれん療法が効果を上げています。これは脳に電気刺激を与える治療法で、全身麻酔をかけた状態でおこないます。けいれん療法という名前がついていますが、筋弛緩薬を用いますので、実際に大きなけいれんが起こるわけではありません。むしろ通電療法と言った方が適当だと思います」(三村医師)
修正型電気けいれん療法(通電療法)は難治性うつ病や、自殺願望の強い重症のうつ病の治療としては現在広くおこなわれており、健康保険も適用される。実施する場合、だいたい4週間程度の入院治療が必要となる。最後にうつ病の注意点として、再発に気をつけて欲しいと三村医師は言う。
「少なく見積もっても、約5割の患者さんが再発すると言われています。そこで、いかに再発しないようにするかということが重要になります。再発をくり返す場合には、抗うつ薬の服用を継続すること、悪循環にはまっていくときの自分の考え方のくせを知っておくことが重要です。うつ病では、たいてい対人関係の問題やつまずきなど何らかの心理的イベントがきっかけになります。特に老年期のうつ病では、健康問題や退職、配偶者や友人など大事な人との死別といった“喪失体験”が関係します。したがって、人と接する機会を多くしたり、スポーツや趣味で生きがいを見出したりして、さまざまな喪失体験から受けるストレスにうまく対処していくことが大切です」
今や日本人の15人にひとりは、一生の間に一度はうつ病にかかると言われている。そして超高齢社会となり、老年期のうつ病も増え、三村医師のような専門家の力がますます必要な時代になってきた。

医師プロフィール

1984年3月 慶應義塾大学医学部 卒業
1984年4月 慶應義塾大学医学部精神神経科研修医
1990年5月 慶應義塾大学医学部精神神経科助手
1992年7月 ボストン大学医学部行動神経学部門(Martin L. Albert教授)、失語症研究センター(Harold Goodglass教授)、記憶障害研究センター(Laired Cermak教授)研究員
1994年6月 東京歯科大学市川総合病院精神神経科専任講師
2000年3月 昭和大学医学部精神医学教室助教授
2008年4月 スタンフォード大学精神科 訪問教授
2011年4月 慶應義塾大学医学部精神神経科学教室教授

「うつ病」を専門とする医師