中里良彦 医師 (なかざとよしひこ)

埼玉医科大学病院

埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷38

  • 神経内科・脳卒中内科
  • 准教授、医局長

神経内科 内科

専門

自律神経疾患、神経感染症、認知症。とくに発汗障害、無汗症に詳しい。

中里良彦

年間入院患者総数は500人を超え、神経疾患の患者数とその内容は我が国でも屈指の埼玉医科大学病院神経内科・脳卒中内科の准教授、医局長として脳卒中およびその後遺症のほか、多岐にわたる神経疾患の治療に当たる。自律神経疾患の中でもとくに発汗障害の臨床経験が豊富で、無汗症の診断と治療におけるスペシャリスト。長年にわたり特発性後天性全身性無汗症を研究し、1994年にいくつかの共通した臨床的特徴を有する症例はIPSFという新たな診断名で呼ぶことを提唱している。特発性後天性全身性無汗症は国の難病対策の一環である研究症例分野に指定され、病態解明及び治療指針の確立研究班の一員に選任され、研究に取り組んでいる。
発汗はヒトやウマなど一部の哺乳動物に備わった優れた体温調節機構である。ヒトは汗の蒸発による気化熱で体温を下げて、熱に弱い脳を保護している。したがって、もしも全身の発汗がなくなると体温は上昇し、たちまちうつ熱になって脳に障害が生じてしまう。汗が全く出なくなる疾患を無汗症、発汗が著しく減少した状態を乏汗症という。先天性(遺伝性)に生じる場合と後天性に生じる場合がある。先天性疾患には先天性無痛無汗症や先天性魚鱗癬などの皮膚疾患があるが、現在のところ無汗に対する治療法はない。後天性無汗症は無汗の分布によって、全身性無汗症と汗の出ない範囲が限られる局所性、分節型無汗症がある。全身性無汗症の場合は、運動時や高温環境下ではうつ熱、熱中症になる危険性がある。そのため、常に体温上昇に注意を払う必要がある。とくに夏場の外出や運動は避けなければならないなど生活面での支障が多く、QOLが著しく損なわれる疾患といえる。後天性全身性無汗症については、その原因の特定できるもの(各種皮膚疾患、シェーグレン症候群による汗腺障害、糖尿病等の全身疾患や種々の神経疾患に伴う自律神経や脳、脊髄の神経系の異常、自己免疫性疾患、薬剤など)と、原因不明の特発性後天性全身性無汗症に分類されている。中里医師は特発性後天性全身性無汗症のうち、無汗の原因となる皮膚疾患や無汗以外の自律神経異常を伴わない症例において、いくつかの共通した臨床的特徴を有する症例群を見出し、idiopathic pure sudomtor fairlure(IPSF)として分類、ひとつの疾患単位とするよう提唱している。その共通する特徴とは1)若年男性に多いこと、2)急性発症し疼痛やコリン性蕁麻疹を伴っていること、3)精神性発汗は保たれており、4)治療には副腎皮質ステロイドが有効であるという点である。そして、IPSFの病態としてエクリン汗腺のアセチルコリン受容体に対する自己免疫疾患である可能性を指摘した。患者は高温環境下や運動で発汗が誘発されると、著明な皮膚疼痛やうつ熱になるが、安静や冷温環境ではまったく異常がない。したがって、安静時に病院を受診しても何ら異常は認めない。IPSFは新しい疾患概念であり、一般人のみならず一般の医師もその疾患の存在を認知しておらず、しばしばヒステリーや心因的問題と誤診されていることがある。これまで、まれな疾患と考えられてきたが、正しく診断されてこなかった可能性があり、潜在的な患者数は多いと思われる。IPSFは早期に診断し治療することで完全寛解が得られることから、中里医師らは本症の啓蒙に努めている。さらに、特発性後天性全身性無汗症は国が行っている難治性疾患克服研究事業のうち公費助成の対象となる特定疾患、いわゆる難病には指定されていないが、難病対策の一環である研究症例分野に平成23年度に指定され、中里医師はそのスタッフとしてその病態解析及び診断基準、治療法の確立に向け取り組んでいる。

診療内容

全身性無汗症と分節型無汗症では基礎疾患、治療方針、予後が異なるため、内科的な全身の診察が必要である。さらに、無汗症の診断では、一般的な神経学的検査のほか、瞳孔検査、起立性低血圧、便秘、排尿障害などの自律神経異常の有無を調べる。無汗部位の検査方法はヨードデンプン法(ヨードの無水アルコール溶液とひまし油の混合液を皮膚に一様に塗り、乾燥後デンプンを均等に散布する。発汗が起こると暗褐色になり、その部位や濃淡で発汗量を検知する)を用いた温熱発汗試験、アセチルコリンやpilocarpineを皮内に注射しエクリン汗腺を刺激して発汗の有無を調べるほか、コリン刺激薬をイオントフォレーシス(イオン浸透療法)で導入して発汗の有無を調べる方法もある。
検査結果からIPSFと診断されるとステロイドパルス療法が考慮される。ステロイドパルス療法とは、通常は大量ステロイド(1g)の点滴を3日間連続で行なう。IPSFではステロイドパルス療法により、発汗量の増加や発汗部位の拡大、うつ熱の改善、皮膚の疼痛がなくなるなど有効である。点滴初日で発汗出現し、著効することもある。効果が不十分な場合にはステロイドパルスを2,3クール施行、またはステロイド内服治療をすることもある。一方、分節型無汗症は基礎疾患を有していることが多く、その基礎疾患に対する治療が優先される。

医師プロフィール

2000年 埼玉医科大学医学部神経内科・脳卒中内科専任講師
2009年 埼玉医科大学医学部神経内科・脳卒中内科准教授