豊田一則 医師 (とよだかずのり)

国立循環器病研究センター病院

大阪府吹田市藤白台5-7-1

  • 脳血管内科
  • 副院長
  • 部長(脳血管部門長)

神経内科 内科

専門

脳血管障害(脳卒中)、神経内科学、高血圧症

豊田一則

国立循環器病研究センター病院は、国内ではじめて本格的な脳卒中ケアユニット(SCU)を立ち上げて集約的な脳卒中急性期内科治療を開始し、近年の血栓溶解療法など新規治療の承認や普及にも中核施設として貢献した、脳卒中診療のセンター・オブ・センターである。脳血管部門の内科と外科とで良好に連携し、24時間365日体制で急性期脳卒中患者を断らずに受け入れている。豊田医師は脳卒中診療チームで部門長として中心的役割を果たし、国内外に最新診療情報を発信し続けている。また後進の育成に力を注いでいる。

診療内容

1970年代までは死亡原因の第1位だった脳卒中。現在はがん、心疾患、肺炎に次ぐ第4位となっている。脳卒中は怖い病気ではなくなったのでしょうか。豊田医師は反論する。「治療法の進歩などで死亡率は低下しましたが、患者数はむしろ増えています。脳卒中の大きな問題は、生命が助かっても重い後遺症をのこして社会復帰できない方が多いことです。たとえば65歳以上で寝たきり状態の人は全国で約32万人いますが、そのうち38%が脳卒中後遺症によるもので、原因別では第1位です。脳卒中の発症には明らかな民族差があります。欧米人と比べて、日本を含めた東アジアでは脳卒中の発症率が高く、脳卒中は日本人の国民病、アジアの民族病と言えます」
現在、わが国は高齢化への拍車がかかっているため、がんや心臓病以上に高齢者がかかりやすい病気である脳卒中は、さらに増えていくだろうと豊田医師は予測する。「現在脳卒中で継続的な治療を受けている患者さんは、国内で約130万人と言われます。しかし、団塊の世代が脳卒中適齢期である70歳代、80歳代を迎え、10年後にはさらに患者数が増える危険があります。そのためにも、脳卒中診療体制を整備して治療法を改善し、また予防対策を徹底させることが急務です」
脳卒中は一昔前までは治らない病気の代名詞のように言われていたが、それほど治療法は進んだのであろうか「1990年代ごろから、MRIや頭部・頸部血管超音波などの診断技術が進歩して、敵(梗塞病巣、脳動脈病変)をしっかりと捉えられるようになりました。診断の進歩が呼び水となって、脳卒中の新たな治療が開発されてきました。とくに画期的であったのが、t-PAという血栓溶解薬の静注療法です。脳梗塞は脳の動脈が詰まって血の流れが止まり、脳の神経細胞が障害される病気です。脳梗塞の治療では、できるだけ早く脳の血の流れを良くすることが大切なのですが、t-PAを静脈から点滴投与すると、詰まった血栓が溶けて血液の流れを再開させることができます。そうして機能停止していた神経細胞に早期に血流が戻ると、半身マヒや言語障害が劇的に改善することが知られています」(豊田医師)
このt-PA静注療法は発症から3時間以内しか使えないというリミットがあったが、2012年8月末から発症後4.5時間に延長された。さらに脳梗塞発症後原則8時間以内の患者に対して、2010年からMERCIリトリーバルシステム、2011年からPenumbraシステム、2014年からSolitaire、Trevoという新しいデバイスで、血栓を機械的に取り除き、血液の流れを再開させる血管内治療(カテーテル治療)を、脳血管部門をあげて積極的に行い、治療件数を伸ばしている。豊田医師によると早期来院例の中でも、より治療開始が早いほど良好な回復が期待できるため、脳卒中が疑わしいと思ったらすぐ救急車で専門病院を受診し、少しでも早く治療を開始することが大切だという。
「早期受診のためには、まず脳卒中の症状を知る必要があります。最近ではFASTという標語を用い、F(FACE: 顔の片側が歪む)、A(ARM: 片腕に力が入らない)、S(SPEECH: 言葉が出てこない、呂律が回らない)などの症状が突然起こったら、T(TIME: 時間)を惜しんですぐ受診と呼びかけています」(豊田医師)
さらにリハビリテーションにも力を入れており、脳卒中専門の病棟である脳卒中ケアユニット(SCU)で急性期脳卒中の集中的内科治療や急性期リハビリテーションを積極的におこなっている。どのような効果があるのか「発症後4.5時間などの時間が強調されるあまり、そのリミットを過ぎたらもう治らないような誤解をされている方がいます。上記以外の治療法を集中的に行い、またリハビリに精力的に取り組むことで、良い治療効果があらわれることも多いです。専門施設でしっかりとした初期治療を始めることが重要です」と豊田医師は言う。
死亡原因の1位だった1970年以前とは段違いに進歩した脳卒中治療。しかし、まだその道は半ばである。国内外の脳卒中診療をリードする同院では、今日も「脳卒中の制圧」を合言葉に日々の診療をおこなっている。

医師プロフィール

1987年3月 九州大学医学部 卒業
1989年5月 国立循環器病センター(旧称)レジデント
1996年12月 米国アイオワ大学 内科研究員
2002年4月 国立病院(機構)九州医療センター 脳血管内科科長
2005年4月 国立循環器病センター 脳血管内科医長
2010年8月 国立循環器病研究センター 脳血管内科部長
2013年10月 国立循環器病研究センター 脳血管部門長を併任

「脳卒中」を専門とする医師