「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~
新型コロナワクチン~副反応の実態が明らかに~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第29回】
10月に入り、日本では新型コロナウイルスのワクチン接種率が国民の6割を超えています。接種に用いた主なワクチンは、ファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンという新しいタイプのワクチンです。さらに、これらのワクチンが流行開始から1年ほどで開発された製剤であるため、2021年2月に接種開始した当初は、効果や副反応について心配する声が数多く上がりました。それから半年以上が経過して、効果の高い安全なワクチンであることが明らかになっています。その一方で、まれに発生する副反応の実態も明らかになってきました。今回は新型コロナワクチンの副反応の現状について解説します。
名古屋空港の大規模接種会場で経過観察のために待機する人たち=2021年5月24日
◇前例のない高速大量接種
日本では21年2月から9月末までに、約7500万人の国民が新型コロナワクチンの接種を受けました。20世紀以降、多くのワクチンが開発され、接種が行われてきましたが、これほど短期間に大量の人が接種を受けることはありませんでした。例えば、季節性インフルエンザワクチンの年間接種率は、日本では国民の3~4割です。また、09年に新型インフルエンザが流行した時には、日本で半年間に約2000万人がワクチン接種を受けました。こうした過去の事例と比べても、新型コロナワクチンが、いかに短期間で多くの人々に接種されたかが分かります。
さらに、今回、日本で主に使用されたのはファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンでした。これはウイルスの核酸成分であるmRNAを接種して免疫を付けるもので、今までに実用化されたことのないタイプでした。しかも、新型コロナの流行が始まってから約1年で開発承認されているワクチンです。このため、「これほど短期間に開発されたワクチンが有効で安全なのか?」という声が多数上がりました。
そんな不安のある中で実際に使用してみると、mRNAワクチンは有効性が高く、重篤な副反応も少ない安全なワクチンであることが明らかになってきました。
◇軽度の副反応はかなり高頻度
重篤な副反応は少ないとしても、接種部位の腫れや痛み、発熱や全身倦怠(けんたい)感などの軽度な副反応は、かなり高い頻度で起こります。
順天堂大学医学部の伊藤澄信客員教授が、医療従事者や自衛隊員を対象に行った大規模調査では、接種部位の痛みは80~90%に見られました。また、発熱は2回目接種後に多く、ファイザー製で38%、モデルナ製で79%と高頻度でした。こうした症状については、ほとんどが2~3日で軽快するとともに、症状が強い場合は、解熱鎮痛剤を服用すると早期に改善します。
ところで、モデルナ製のワクチンは、接種後1週間ほどしてから接種した腕が腫れてくる現象が時に見られ、モデルナアームと呼ばれています。これも数日で軽快しますが、1週間ほどしてから起こる副反応のため、心配する人も少なくありません。なお、モデルナアームはファイザー製のワクチンでも起こることが明らかになっています。
◇重篤な副反応の発生はまれ
接種が開始された当初、アナフィラキシーという重篤なアレルギー反応の報告が相次ぎました。これはワクチンに含有される脂質成分へのアレルギーと考えられており、20~30歳代の女性に多いとされています。しかし、接種者数が増えてくると、報告は次第に少なくなり、最近では、その頻度がファイザー製では100万回接種で4件になっています。これはインフルエンザワクチンに比べると少し高い数値ですが、まれな副反応と言っていいでしょう。
アナフィラキシーが起きるのは接種後30分以内が多く、適切な処置をすることで、ほとんどが回復します。過去に薬や食べ物などでアレルギーを起こした人は、リスクが高くなることもあるので、事前の問診で必ず申告してください。
接種者数が増えてから新たな副反応も明らかになってきました。それは心筋炎という心臓の炎症で、日本での頻度は100万回接種で1件とまれなものです。この副反応は20歳代前後の男性に多く、2回接種した数日後に胸痛などの症状で発症します。そのままにしておいても、ほとんどは回復しますが、心配な場合は医師の診察を受けるようにしてください。
日本での接種者数は少ないですが、アストラゼネカ製のワクチンの場合、まれに血栓症を起こすことがあります。アストラゼネカ製はベクターワクチンという別のタイプで、軽度の副反応はmRNAワクチンとほぼ同じ頻度で発生します。これに加えて、若い世代では脳の血管などに血栓ができる副反応がまれに起こります。このため、アストラゼネカ製のワクチンは、原則的に40歳代以上に接種することになっています。
接種後に体調が急変したケースへの対応訓練=2021年2月27日千葉県富里市
◇ワクチン接種後の死亡者
ワクチンを接種した後に死亡した事例については、死亡確認した医療機関や当該ワクチンの製造業者が国に報告することになっています。新型コロナワクチンではファイザー製で1157人、モデルナ製で33人の接種後死亡者が報告されました(2021年9月12日までの集計)。頻度にするとファイザー製は100万回接種で9.4件、モデルナ製は1.4件になります。
ここで重要なのは、この報告例は死因としてワクチンの影響が少しでも考えられるケースです。例えば、ワクチン接種後に交通事故で亡くなったケースは報告されませんが、接種後1週間くらいして、誤嚥(ごえん)性肺炎を起こしたケースは報告される可能性があります。ファイザー製で死亡者数が多いのは、高齢者への接種に用いられているためで、ワクチン以外の死因で亡くなった人が数多く含まれているものと考えます。
この報告例を、国の医薬品医療機器総合機構が専門家に依頼して、ワクチン接種と死因との因果関係を判定します。この判定によれば、死亡者のうち「ワクチンとの因果関係が疑われる」との判定は有りませんでしたが、「情報不足などで判定できない」が9割以上を占めていました。死因としては心筋梗塞や脳卒中が多く、ワクチン接種を受けていない人がこれらの原因で死亡する頻度の方が、ワクチン接種後の死亡の頻度より高いため、ワクチン接種と死亡の因果関係は無いと考えられています。
ただし、死亡者に関しては、もっと詳しい解析方法で因果関係の有無について判定を行う必要があります。
◇今後の課題
日本での新型コロナワクチンの接種率は最終的に7割以上に達するものと予想されています。今後は追加接種(3回目接種)を、いつ頃、どの対象者に行うかを決めていかなければなりません。接種者が増えれば、副反応の情報もさらに更新されていくことになるでしょう。こうした新たな副反応情報を、政府からも国民向けに定期発信していくことが求められています。
なお、本コラムは筆者の個人的な意見であり、筆者の所属する政府の審議会などの見解ではないことを申し添えます。(了)
濱田篤郎 特任教授
濱田 篤郎 (はまだ あつお) 氏
東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。
(2021/10/07 05:00)
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