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悪化すると日常生活に支障
~手荒れの段階の具体的イメージ(野村有子・野村皮膚科医院院長)~ 第2回

 生活習慣によって手荒れは大きく進んでしまいますし、悪化すると日常生活にも支障を来して皮膚科の治療が必要になります。しかし、自分の手がどの程度荒れているのか、なかなかイメージがつかみにくい、という人も少なくありません。そこで、どの程度皮膚にダメージがあれば手荒れなのか、その段階はどうなのか。正常な状態から初期、中期、重症とに分けてそれぞれ説明していきます。

手荒れが重症化した状態

手荒れが重症化した状態

 ◇バリアー機能が正常状態

 皮膚表面の皮脂膜や角質細胞が正常な状態であれば、基本的に外からの刺激を防ぐことができます。手のひらや指先もきれいです。皮膚はきめ細かくすべすべしており、傷や手荒れができにくい状態です。日頃のハンドケアによって、この状態をキープしたいものです。

 ◇乾燥し始めた初期

 一方、手荒れの初期の状態は皮脂膜が減少し、角質細胞も乾燥して縮小し、天然保湿因子が少なくなっています。せっけんやアルコール消毒液が残りやすい手首や指の間、手の甲にかけて荒れが広がりやすいので注意してください。特に利き手の指先は乾燥して皮がむけやすくなります。

 対策としては、せっけんで手を洗った後は、手首や指の間にせっけんの泡が残らないように十分にすすぐこと。そして、その後に乾いた清潔なタオルで、ぬれている部分の水分をきちんと拭き取ることも大切です。乾燥が気になっている部分にはハンドクリームも使用します。

 ◇皮膚に亀裂が入る進行期

 手荒れも進行期に入ると、はっきりとした症状が出てきます。皮脂膜は無くなり、角質細胞もはがれて減少してしまいます。皮膚自体も硬くなって亀裂が入り、ひび割れができます。

 全体に赤く炎症を起こし、軽度のかゆみや痛みも伴うようになります。

 このような状態で手を使う場合は、木綿やシルクの手袋を着用して、極力素手にはならないようにしましょう。特に水仕事をする場合は、さらに、その上にゴムやビニールの手袋を着けるとよいでしょう。

 皮膚の角層は2週間で生まれ変わるので、この2週間くらいに徹底して手袋を使用すれば、かなり良くなります。また、手を洗うときは刺激の少ないせっけんを使用し、洗った後はきちんと水分を拭き取り、ハンドクリームをそのたびに塗ること、日頃のハンドケアも大切です。

 ◇症状が深刻な重症期

 では、重症期とはどういう状況でしょうか。角質細胞がはがれて機能不全に陥るのはもちろん、皮膚にできた亀裂が表皮組織全体を貫いて出血を起こし、炎症は表皮組織の下の真皮組織にまで拡大していることもあります。

 症状としても手が赤く腫れて皮むけがひどく、ジクジクして痛い、と深刻になります。かゆみも強くなり、夜中に目が覚めてしまうこともあります。さらに細菌などに感染して、爪囲(そうい)炎や蜂窩織(ほうかしき)炎などになるリスクも高まります。手荒れがひどくなって、血が出たり痛みが生じたりした場合には、早めに皮膚科を受診しましょう。

 皮膚科での治療としては、かゆみが強い場合はステロイド外用薬や抗ヒスタミン薬の内服を行います。また、痛みが強く、感染症を併発している場合は、抗生物質の内服を行う場合もあります。症状がひどくなればなるほど、治るまで時間がかかり、決して「手荒れくらい」などと軽視してはいけません。

 ◇ハンドクリームを正しく使うこつ

ハンドクリームはたっぷり塗る

ハンドクリームはたっぷり塗る


 このような状態にならないためには、手を洗った後にハンドクリームを、小まめに塗りましょう。手を洗う場所にハンドクリームを置いたり、小さなハンドクリームをハンカチと一緒に持ち歩いたりなどすると、小まめに塗る習慣が付きます。

 塗る際は、手全体にハンドクリームを少し多めくらいに、たっぷりとなじませるようにするのがこつです。塗る回数は、手を洗うたびに塗るのが理想的です。手を洗えば、せっかく塗ったハンドクリームがせっけんや水に流されて落ちてしまうからです。

 油成分の多いハンドクリームは一般的に水では落ちにくいので、1日に数回塗るだけでも効果があります。ただ、べたつくのが難点なので、日中はローションやクリームなどのべたつかないタイプを選び、夜寝る前には油成分の多い、軟こうタイプのハンドクリームをたっぷり塗って、綿の手袋をして寝るのが理想的です。

 手荒れの状態が血の出るくらいにひどくなったり、かゆくてたまらなくなったりした場合には、ハンドクリームだけでは治らない可能性があります。皮膚科できちんと治療を受けましょう。

 ◇ハンドクリームの選び方

 現在の日本では、いろいろなハンドクリームが販売されています。大きく分けると、尿素系・ビタミン系・かゆみ止め系・保湿系となります。このうち尿素系は、角質層を溶解させる働きと保湿効果があります。手のひらや肘などの肌が角質化してカサカサしているときに効果的です。ただし、傷がある場合や、唇や目元など皮膚の薄い部分は刺激されるので使用しないでください。

 一方、ビタミン系は血行を促進させるビタミンEを含んでおり、手全体がカサカサしてあかぎれができ始めていたり、指先が冷えていたり、しもやけや、かゆみがあるときに効果的です。

 かゆみ止め系はクロタミトンやジフェンヒドラミンなど、かゆみ止め成分が配合されていて、皮膚に赤みや、かゆみがあるときに効果的です。ただし、数日使用しても効果がない場合には、他の皮膚病などの可能性もあるので皮膚科を受診しましょう。

 保湿系は、ワセリンやスクワラン、セラミド、ヘパリン類似物質などの保湿成分が配合されていて、皮膚のかさつきが気になるときに効果的です。ただし、かゆみがあったり、あかぎれができて赤くなっていたりするときは、かゆみ止め系やビタミン系を選んでください。

 ◇1年中ハンドクリームを

 冬以外の季節でも、1年中ハンドクリームを塗ることで手荒れを防ぐことができます。

 皮膚の角質は2週間、表皮は4週間で生まれ変わるので、手荒れが起き始めると、修復するまでに2週間以上もかかってしまいます。普段から手に気を配ることが、手荒れの予防にとって最も大切なことです。(了)

野村有子院長

野村有子院長

 野村有子(のむら・ゆうこ)
 1961年岩手県生まれ。慶応義塾大医学部卒。同大助手などを経て、98年に野村皮膚科医院を開業。さまざまな皮膚疾患を治療し、スキンケアのきめ細かな指導を行う。雑誌やテレビなどの取材も受け、啓発活動に積極的に取り組む。

第1回「コロナ予防で増える手荒れ~冬に向かい、加速度的に悪化」

第3回「手指の消毒はなぜ必要?~コロナウイルス対策の基本」

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