全身のけいれんや運動まひ 家庭の医学

 けいれんとは、全身や一部の筋肉が突然かたくなり、自由がきかなくなるものです。乳幼児は、ちょっとしたきっかけで全身にけいれんを起こします。俗にいう“ひきつけ”です。かぜをひいて高熱を出したときや、ひどく泣いて興奮し、それが一時とまったときにも、ひきつけることがあります。

 真性てんかんは、くり返しけいれん発作を起こすもので、気を失って倒れ、全身の筋肉が硬直し、十数秒間ガタガタとふるえ、数分で意識が戻ります。診断されれば、薬を服用して予防することができますが、自分ではなにが起こったかを思い出せないことが多いようですので、目撃者や、いままでの経緯を知っている家族や友人などからようすを伝え聞くことが重要です。
 症候性てんかんは、なんらかの疾病に伴ってけいれんを生じるもので、頭部外傷や脳の病気のほかに、日射病、低血糖症、尿毒症、テタニー、破傷風などが原因になります。

 生後3歳までに起こるけいれんでは、分娩(ぶんべん)損傷、感染症、熱性けいれん、先天性代謝異常によるものが多く、10~25歳の学童期から青年期にかけては真性てんかんが多くみられます。25歳以上になると、脳血管障害、脳腫瘍、頭部外傷などがおもな原因となります。
 急性の運動まひは、けいれんと同様、頭部外傷や脳卒中のほか、髄膜炎、多発神経炎、脊髄の外傷などで生じ、やはり早期に診療を受ける必要があります。重症筋無力症、周期性四肢まひでは、手足などの筋肉に力が入らなくなったり、おさまったりします。
 からだの一部に生じるけいれんでは、顔やくび、手足の筋肉、なかでもふくらはぎによく起こり、俗に“こむら返り”と呼ばれます。急に激しい運動をしたときなどに起こります。一刻を争う症状ではありませんが、しばしばくり返します。末梢神経障害では、筋力低下に、しびれや痛みを伴います。
 筋力が徐々に低下する病気として、筋萎縮性側索(そくさく)硬化症、進行性筋ジストロフィー、多発性筋炎などがあります。

■全身のけいれんや運動まひ
症状病名そのほかの症状など
乳幼児の場合ひきつけ一時的な意識消失
熱性けいれん発熱、失神発作
百日せき連続するせき
急性乳児下痢症急性の下痢、嘔吐
麻疹(はしか)口腔内や舌の白い斑点、全身の発疹、発熱、のどの痛み
細菌性赤痢腹痛、便に血がまじる
発熱あり脳炎意識障害、吐き気・嘔吐、頭痛
髄膜炎頭痛、嘔吐、意識障害・失神、吐き気
脳膿瘍頭痛、吐き気・嘔吐
破傷風意識障害・失神、口が開きにくい
発熱なし真性てんかん失神発作
頭部外傷めまい、吐き気・嘔吐、意識障害
脳出血めまい、意識障害・失神、頭痛、高血圧、吐き気、顔面や手足のまひ
脳梗塞意識障害・失神、頭痛、嚥下困難、感覚障害、めまい、片側の顔面や手足のまひ
くも膜下出血頭痛、意識障害、吐き気・嘔吐、くびのうしろがかたくなる(項部硬直)
もやもや病脱力発作、意識障害、頭痛
脳腫瘍耳鳴り、吐き気・嘔吐、頭痛、片まひ、しびれ、けいれん
重症筋無力症くり返し動かすと脱力、夕方に筋力低下
周期性四肢まひ夜間から早朝に手足が急に脱力
ギラン・バレー症候群かぜのあと、左右対称の脱力・まひ
パーキンソン症候群小刻み歩行、手足のふるえ、無表情、筋肉のこわばり
振戦こまかいふるえ
チック子どもに多い、顔面や肩の急な運動
バセドウ病動悸、やせ、甲状腺のはれ、眼球突出、多汗
熱中症意識障害・失神、のぼせ、頭痛、尿が少ない、吐き気
低血糖症意識障害・失神
尿毒症無尿、むくみ、息切れ、吐き気・嘔吐、頭痛
テタニー緊張性の筋収縮
房室ブロック意識障害・失神、めまい、息切れ
洞機能不全症候群意識障害・失神、めまい、息切れ
不整脈意識障害、呼吸困難
妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)
中毒脈が速い
筋力低下がゆっくりと進行筋萎縮性側索硬化症言語障害、飲み込みにくい
進行性筋ジストロフィー小児、筋萎縮
多発性筋炎体幹を中心とした筋力低下、皮膚紅斑の合併


(執筆・監修:公益財団法人 榊原記念財団附属 榊原記念病院 総合診療部 部長 細田 徹