日本顎口虫症〔にほんがっこうちゅうしょう〕 家庭の医学

 2022年秋、青森県産のシラウオを生で食べた人たちから、300人を超える日本顎口虫症患者が出ました。イタチの食道壁に寄生している体長2cmほどの日本顎口虫成虫が産んだ虫卵が便とともに淡水に入り、幼虫が孵化(ふか)、これをケンミジンコが食べ、さらにそれをドジョウやシラウオが食べることで感染の準備がととのいます。自然界ではこのドジョウやシラウオをイタチが食べることで感染の輪が回っています。ところがそこに人間が割って入り、生でドジョウやシラウオを食べるために患者があらわれます。顎口虫は本来の終宿主ではない動物の消化管を抜け出て幼虫のまま体内を移動するため、食べたあと5~10日して、皮膚にみみずばれや移動性の瘤(こぶ)が出現します。幼虫の移動に2~3日遅れながら、みみずばれは伸びてゆきます。幼虫は体長2mmほど。そのみみずばれ先端の少し先にいるはずですが、場所の特定は困難です。皮膚超音波診断の経験のある医師であれば、皮膚の上から超音波プローブを当てて幼虫の居所の見当をつけることができます。それでも除去のためには皮膚を大きく切り開く必要があります。
 青森県では患者多発の報告を受け同年11月、シラウオ数千匹を検査しましたが顎口虫幼虫をもったシラウオは1匹も見つかりませんでした。ですが感染源がシラウオである可能性はきわめて高いといえます。予防としてシラウオはよく熱を加えてから食べること、あるいは-20℃以下に24時間以上保存したものを解凍してから食べることをおすすめします。

(執筆・監修:長野県飯田保健福祉事務所 所長 松岡 裕之)
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