吉岡洋 医師 (よしおかひろむ)

名古屋第二赤十字病院

愛知県名古屋市昭和区妙見町2-9

  • 呼吸器外科
  • 部長

呼吸器外科 外科

専門

手掌多汗症、肺がん外科治療、自然気胸

吉岡洋

吉岡洋医師は呼吸器外科医として25年以上従事してきた。これまで肺がんを主とする胸部悪性疾患や自然気胸、胸部外傷、漏斗胸などの外科治療が主たるテーマであったが、2006年に手掌多汗症患者の外科治療を経験し、50年前からほとんど進歩していない現状を知ったという。
「調べていくと、治療成績や代償性発汗に代表される合併症のきっちりした研究も全く行われておらず、一方で非常に多くの患者さんが困っている現状も知りました」(吉岡医師)
幸い名古屋大学皮膚科で代々発汗の研究をしており、現在では愛知医科大学皮膚科および愛知医科大学第2生理研究室が、それぞれ独自の研究を進めていることもわかった。このため、共同研究することで、掌蹠多汗症の病態、治療法を研究していくことが可能となった。実際の診療・手術は特殊な道具や測定装置、研究機器を使用するため、大学病院や日赤病院での研究は困難を極めたが、元名古屋大学胸部外科教授の村瀬先生が院長を務める東名病院で行うことで臨床研究が可能となり、現在に至っているという。
これまでに400例以上の手術治療を行い、多くのデータを元にテーラーメイド手術療法(東名病院HP参照)をある程度確立させつつあり、その成果は学会発表や論文発表で高い評価を得ている。2010年からは厚生労働省の難治性局所多汗症研究班の班員として研究をする一方、掌蹠多汗症治療ガイドライン作成委員として治療指針の確立にも携わっている。これまでの研究で手掌多汗症患者は全人口の約3.8%いることがわかっており、決してまれな病態ではない。
「局所多汗症には手掌以外にも足底、腋窩、顔面多汗症がありますが、生産労働性に一番影響のある手掌多汗症に対する治療法の確立が、最も重要で急がれます」(吉岡医師)
生産労働性とは、汗のため仕事や勉強の能率が下がるもしくはできなくなる、自分の望む職種を選択できなくなる等を指す。
吉岡医師グループでの手掌多汗症に対する治療成績では、満足度の点からは98%と高い結果が得られているが、代償性発汗に対する治療方針や治療法選択順序など、まだ解決すべきわからないことが多くあるという。このため多汗症に悩む患者を救うべく、さらなる研究を続けている。「我々のグループで治療を受けられる方には、様々な検査に協力していただいています。これからも、多汗症に悩む多くの方々のためにもご協力をお願い致します」(吉岡医師)

診療内容

人は緊張すると汗をかく。試験や面接の時、またテレビを見ていて緊張する場面などで手や脇に汗をかく経験は誰にもあるだろう。これを緊張性発汗(または精神性発汗)といい、暑いときにかく汗(温熱発汗)と区別している。緊張性発汗の量が通常より多い場合、仕事や学業、時には日常生活にまで支障を来すことがある。これは原発性局所多汗症の一種で、多汗の最も多いのは手掌と足底であるため、掌蹠多汗症といわれている。他に腋窩・顔の多汗がみられることもある。程度にもよるが、厚生省多汗症治療班会議による全国アンケートでは100人に4人の頻度で見られると報告。決して珍しい病態ではない。青年期に多く、汗腺等の解剖学的異常はない。症状の強い人になると、握り拳を作ると、汗が滴になってしたたり落ちる。精神的苦痛が強くなる人が多く、精神科などに通院するケースも見られる。原因ははっきりしていないが、胸部の交感神経という自律神経の一種が関係していることがわかっており、脳の前頭葉が関与している可能性も報告されている。
治療として、塩化アルミニウム塗布に代表される外用療法、抗コリン剤内服による薬剤療法、水道水イオントフォレーシス、ボツリヌス毒素A皮内注射、手術療法(胸部交感神経遮断術)などが行われており、それぞれ利点・欠点がある。薬剤療法は効果が明らかではなく、副作用も多いため、現在では治療法として適していないと考えられつつある。
外用療法やイオントフォレーシスは、効果の期待できる治療法。ただ発汗量の多い症例では無効の場合がおおく、外用療法はかぶれることも多々ある。イオントフォレーシスは、頻回な通院を要する。ボツリヌス毒素も効果の期待できる治療法だが、高価で掌蹠多汗にはまだ保険適用がない現状。これらはいずれも効果期間に限りがあり、繰り返し持続する必要がある点も考慮が必要だろう。
現在最も効果が期待できる治療法は、胸部交感神経遮断術という手術療法。発汗に関係していると思われる交感神経を切断することで発汗を止める治療法だ。この方法による手掌多汗の治療効果はほぼ100%で、治療直後は大変喜ばれている。一方問題点として、ほぼ全員に体幹に多かれ少なかれ発汗が生じることが挙げられる。従来、代償性発汗といわれており、暑いときに体幹(胸・腹・背中・大腿部など)の汗が以前より出やすくなるもの。本質的には温熱発汗である。温熱発汗の閾値低下か、発汗量の反射的増加なのかについて研究しているが、まだ解明はされていない。「我々の研究では、近年普及している下部神経遮断でも多かれ少なかれ必ず見られるが、苦痛の程度にばらつきがあることも事実です」(吉岡医師)
つまり、同じ手術をしても、全く代償性発汗を感じない人や、多少感じてもほとんど気にならない人、気にはなるが困らない程度の人、苦痛を伴うほど多い人と、大きな個人差があるのだという。吉岡医師はこれら副作用に個人差がある点に注目し、従来の手術方法を見直す新たな手術療法を開発すべきと考えている。このため、同院呼吸器外科、愛知医科大学皮膚科、愛知医科大学生理学教室で共同臨床研究を計画し、東名病院にて術中モニターリングによる遮断部位のテーラーメイド胸腔鏡下胸部交感神経遮断術を続けている。
「手術は全身麻酔下に行います。我々は山本先生(山本クリニック)の開発された器具を使用しており、傷は3mm程度1箇所腋窩にあるのみです」(吉岡医師)平均手術時間は10分。術後3時間で退院可能だという。
2006年2月まで48例に同術式を行い、手掌に対する効果は95%で苦痛を伴う温熱発汗は6.3%。同年3月からは更に改良を加え、術中血流・発汗量の測定を解析しながら神経切断部を決める改良テーラーメイド手術を開始。同年3月から2010年3月現在までの190例で、手掌に対する効果は98.3%になり、苦痛を伴う代償性発汗は4.8%であった。足底発汗の自覚症状は全ての症例で改善がみられなかった。現在取り組んでいるのは、「苦痛をともなう代償性発汗を如何に減らせるか」という問題。代償性発汗の病態・原因・対策を研究するため、体幹発汗テスト(ミノール法)を、手術予定者の術前術後、また術後代償性発汗で悩んでいる患者にお願いして、協力を得つつあるという。現在データを採取、解析中だが、ここまで分かってきたこと、現在手術中に取り組んでいる対応策について以下に述べる。これまで7年間に約400例のETSを行ってきた。途中手術方法の変更もあり、時期によって差はあるが、今回は全症例のデータをみることとした。
手掌多汗に対する効果は98%以上の満足度を得ており、一方で代償性発汗は、全く感じない:13%、暑いと汗が多くなるが気にならないと感じる:61%、暑い時の汗が気になるが、日常は困らない:16%、暑いと多量の汗が出て苦痛で困っている:6%。
全員に共通しているのは、涼しいときには汗は出ないということだ。代償性という言葉が混乱の元なのだが、手の汗が背中や太腿にそのまま移ったかのごとく考えがち。しかし決してそうではなく、暑い時の汗が出やすくなったのか、多くなったのかのどちらかで、本来反射性発汗というべき病態であることが分かりつつある。この全く感じない患者数人にミノールテストを行ったところ、全員に代償性発汗を確認できた。つまり、本人の自覚がなくても代償性発汗は必ず起きるということがわかる。ではなぜ、自覚症状に差が出たのか。現在ミノール法施行時に発汗部位や発汗量、室温と体温の関係などを測定することで解析を行いつつあるが、代償性発汗量は自覚症状とは一致せず、発汗量が少なくても苦痛を訴えたり、比較的多くても何とも感じない患者も多くいて、アンケート調査の結果だけでは代償性発汗研究には不十分であることがはっきりしてきている。現在わかっている範囲では、手掌多汗と共に腋窩多汗も非常に気にされる患者は、比較的少ない発汗量でも苦痛が大きい傾向にあるということ。しかしもう少し研究を進めないとはっきりしたことはわからない。掌蹠多汗症で悩んでいる患者に、少しでも良い治療法を開発し提供するために、東名病院・愛知医科大学皮膚科・愛知医科大学生理学教室・名古屋第二赤十字病院呼吸器外科は、共同でさらに研究を進めている。
「全力を尽くしていますが、我々のグループで治療を受けられる方には是非、発汗テスト、ミノール法へのご理解とご協力いただきたくお願いいたします」(吉岡医師)

医師プロフィール

1986年3月 滋賀医科大学医学部 卒業
1986年4月 滋賀医科大学第2外科 研修医
1988年4月 愛知県がんセンター胸部乳腺外科 レジデント
1990年6月 国立がんセンター病院外科 レジデント
1993年6月 国立がんセンター中央病院呼吸器外科 チーフレジデント
1995年6月 名古屋大学医学部胸部外科 医員
2003年4月 名古屋大学医学部呼吸器外科 助手
2004年1月 名古屋大学医学部呼吸器外科 講師
2004年4月 名古屋第二赤十字病院 呼吸器外科部長、名古屋大学医学部臨床講師