榎本隆之 医師 (えのもとたかゆき)

新潟大学医歯学総合病院

新潟県新潟市中央区旭町通一番町754

  • 産科婦人科
  • 科長、産科婦人科学教授

産婦人科 婦人科 がん

専門

婦人科がん(子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、外陰がん)の病理、診断、外科的治療、化学療法を専門分野とし、妊よう性温存治療に積極的に取り組む。

榎本隆之

榎本隆之医師は婦人科がん、とくに子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、外陰がんの名医として知られる。妊娠・出産を希望する早期子宮頸がん患者に対する妊よう性温存治療(広汎子宮頸部摘出手術)を積極的に行い、これまで40例執刀している。2010年には妊娠15週に子宮頸がんに対する広汎子宮頸部摘出手術を行い、その後も妊娠を継続させて出産に成功した。Cure(治療)とともにCare(気配り)の重要性を説き、医療従事者や患者が共に参加する院内コンサートの企画など患者の精神面でのサポートについても積極的に尽力し、若い研修医には常に患者の心に寄り添った治療を心がけるよう指導している。

診療内容

榎本医師が科長を務める同科では良性疾患に対しては身体への負担が少ない「内視鏡手術(腹腔鏡手術、子宮鏡手術)」を積極的に取り入れ、悪性疾患に対しては子宮を切除しない「妊よう性温存治療(妊娠する能力を保つ治療)」「子宮頸がんに対する神経温存手術」「抗がん剤治療と放射線治療を組み合わせた集学的治療」などに加えて 、分子標的薬などを使用した臨床試験も行っており、患者にとってベストの治療が提供できるよう心がけている。
子宮がんは子宮の入り口にできる子宮頸がんと子宮の奥にできる子宮体がんの2種類ある。両者とも増加傾向にあるが、特に子宮頸がんでは、原因であるヒトパピローマウイルス(HPV)感染の若年化により20~30歳台の若い女性に増えている。子宮頸がんになる前の前がん病変である「子宮頸部異形成」や0期のがんである「子宮頸部上皮内がん」の状態でみつけることができれば、ほぼ100%治癒が可能である。現在、20歳以上の女性には2年に1回の子宮がん検診が推奨されているが、特に子宮頸がんの発生が多い20~30代の女性は必ずがん検診を受けることが重要である。
同科ではリプロダクティブヘルスの観点から、将来的な妊娠の可能性を考慮した妊よう性温存手術や、治療後の患者の生活の質の向上を目指した治療を行っている。これから妊娠・出産をする若い女性の子宮頸がんに対する保存的(子宮をとらない)治療方法として「広汎子宮頸部摘出術」を行っている。この方法は子宮頸部の病変部のみを摘出し、残った子宮体部と膣をつなぎ合わせる手術で、病巣が2cm未満の比較的早期のがん(Ⅰb1期までのがん)に適応でき、2009年に発表された論文ではこれまでに国内で270例されているが、榎本医師はこれまで40例を執刀している。
また、榎本医師は大阪大学医学部附属病院に在籍中(2010年)に、妊娠8週目の検診で早期の子宮頸がんが見つかった28歳の女性に妊娠15週に子宮頸がんに対する広汎子宮頸部摘出手術を行い、その後も妊娠を継続させて出産に成功した。
子宮体がんはここ20年間で約3倍に増えており、50歳以上の閉経後の女性が最も多いが、最近では若い女性でも増加してきている。「閉経後に不正性器出血を認めた際はまず子宮体がんを疑う。閉経前でも月経が不順であったり、月経以外に不正出血がある場合には子宮体がんの可能性を考える。子宮体がんの治療は手術によって子宮の全摘と両側の卵巣と卵管を摘出するのが基本で、症例に応じてさらに骨盤内や大動脈の周囲のリンパ節を切除する。手術の際に摘出した臓器の病理学的検索で再発のハイリスク群と判定された場合は、術後補助療法として抗がん剤による化学療法を行うことが多い。
若い女性の子宮体がんに対する保存的(子宮をとらない)治療方法では黄体ホルモン療法がある。この方法はがんが子宮の粘膜面にだけにとどまって子宮の筋層の中に浸潤していない高分化型のがん(がんの顔つきが比較的穏やかながん)の場合に限って適応される。高濃度の黄体ホルモン(プロゲステロン)を4~6ヶ月間内服する方法で、同科では20人以上の若い女性にこの方法を行い、そのうち70%でがんが消失し、その後、妊娠を希望した女性のうち75%が妊娠している。
卵巣がんは早期がんでは症状がでにくいこと、有効な検診方法がないことよりIII・IV期の進行したがんとしてみつかることが多く別名“サイレントキラー”とも呼ばれる。
「痩せているのにお腹だけが急に出てきたり、お腹のはりや下腹痛、食欲不振、満腹感、頻尿、排尿困難などがある場合は卵巣がんの可能性がありますので医療機関を受診してください」と、榎本医師。ウエストのサイズ急に1回り大きくなるなど体の変化を見逃さずに受診することが重要という。また、卵巣がんは特に家族歴がある(父母や親戚に卵巣がんや乳がんの人がいる)場合に発症のリスクが上昇するので、そのような人は特に注意が必要である。
卵巣がんの治療は両側卵巣・卵管摘出、子宮摘出、リンパ節切除、大網切除術を基本術式とし、腹腔内に広がっている腫瘍(播種)がある場合には、播種巣をできるだけ切除する可及的腫瘍減量術を行う。腫瘍が散らばった場所により必要に応じて腸管切除、肝切除、横隔膜切除などを行う。子宮頸がんや子宮体がんと比較すると抗がん剤治療の効果が高く、手術で腫瘍がすべて摘出されなかった場合でも、残存腫瘍が1cm以下であれば、抗がん剤による効果が期待できる。Ia、Ib期の高分化型のがん以外は、再発予防のため術後補助療法が追加される。
卵巣がんの広がりが広範囲な場合や合併症などにより手術が難しい場合には、抗がん剤治療を行って腫瘍を縮小させてから手術を行う方法もある。この場合も、手術後に術後補助療法が追加される。
若い女性に卵巣がんが発生した場合で妊娠の希望が強くある場合には、卵巣がんがごく初期の場合(片方の卵巣にがんがとどまるIa期であることと、高分化型腺がんであること)に限って腫瘍のみを切除して、一方の卵巣と子宮を温存する妊よう性温存手術を行う。
榎本医師はこのような治療と同時に、心のケアや患者へのきめ細かな配慮が重要であることを提唱しており、大阪大学医学部附属病院で行われていた院内コンサートについて「よく眠れるようになった、治療に前向きに取り組めるようになれた、頑張っているのは自分だけではないことがわかった、入院が最初は苦痛だったが、今では楽しみになっているなどの患者さんからの声も多く、治療にも好影響を与えました」と、その効用を榎本医師は若い医師や研修医にCure (治療)はもちろん大事だが、Care(看護、気配り、配慮)にも心を砕くよう指導している。
同科での外来における副作用対策への配慮もその1つであり、化学療法を受ける患者には事前に投与スケジュールや副作用について専用のパンフレットを活用し充分な説明を行っている。また、同院では主に卵巣がん、子宮体がんの化学療法を外来で受ける患者のために通院治療センターを設けている点も特筆される。冷蔵庫や電子レンジ、電気ポット、鍵付きロッカーなどを完備し、各ベッドにはテレビを設置するなどして、1回2時間から4時間強かかる点滴の間、できるだけリラックスして治療を受けられるよう環境整備に努め、専門のスタッフが採血などの検査・副作用の対策などきめ細かなに対応している。

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医師プロフィール

1983年 大阪大学医学部医学科 卒業
1986年 米国国立がん研究所客員研究員
1991年 大阪大学医学部医員
1994年 大阪大学医学部研究生
1996年 大阪大学医学部助手
2002年 大阪大学医学(系)研究科(研究院)講師
2007年 大阪大学大学院医研究科准教授
2012年 新潟大学医学部産科婦人科学教室教授