青木大輔 医師 (あおきだいすけ)

慶應義塾大学病院

東京都新宿区信濃町35

  • 産婦人科
  • 教授、診療部長

産婦人科 婦人科 がん

専門

婦人科腫瘍学、臨床試験、がん検診、遺伝性婦人科がん

青木大輔

青木大輔医師は、日本を代表する子宮がんのエキスパート。婦人科の病気には子宮筋腫、子宮内膜症、子宮頸がん、子宮体がんなどの子宮の病気や、卵巣がんなどがあり、病気の種類やその重さによっては、命を失うことになり、妊娠・出産の機会を奪うことにもなりかねない。とくに子宮頸がんは、ある程度病気が進むと子宮を全部摘出しなければならないが、青木医師は子宮体部を残す「子宮頸部円錐切除術」や「広汎性子宮頸部摘出術」で妊娠出産機能を温存するなど、女性の人生を考えた治療で信頼を集めている。

診療内容

子宮がんには、二つの種類がある。子宮の入り口にがんができる病気が子宮頸がん、子宮の内部にがんができるのが子宮体がんである。この二つは、がんになる原因や検査方法、治療方法も異なるため、同じ子宮にできるがんでもまったく違う病気と考えたほうがよい。
近年日本では若い女性に子宮頸がんが増加し、大きな問題になっている。以前は、60代、70代の高齢者に患者が多くみられたが、今では20代後半から増えはじめ1番増加率が著しいのは30代後半である。ピークは40代後半で、20代、30代でがんになる人もかなり増えてきた。20代後半から30代後半は、妊娠出産の多い年齢。子宮頸がんは進行すると子宮を全部摘出する必要があるので、妊娠能力を残すためにも子宮頸がん検診をうけて、早期に発見することが大切。
20代でも、がんになる前段階の前がん病変という状態になっている人が増えている。ただ、子宮頸がんは早期に発見できれば、適切な治療でほぼ完全に治すことができる病気であるため、何の異常もなくても、子宮頸がん検診を受けることが大切である。
子宮頸がんを引き起こす原因は、ヒトパピローマウイルスの感染と考えられている。ヒトパピローマウイルスは、皮膚と皮膚、皮膚と粘膜との接触によって感染するもので、女性の子宮頸部に感染する場合は、主として性交渉によるものと考えられる。このウイルスはごくありふれたもので、性体験のある女性の70%以上は一生に一度は感染しているといわれる。またウイルスに感染したからといってすべての人がすぐにがんになるわけではない。ほとんどの場合、感染は一過性でその90%は免疫や細胞の新陳代謝によって排除される。残った10%の中で、細胞への感染が長く続いた場合、通常とは違う細胞が形成される。これが前がん病変、もしくは扁平上皮内病変(異形成)と呼ばれる状態で、前がん病変から明らかな浸潤がんになるまでは数年から10年以上かかるため、まずは、きちんと検診を受けて、細胞の変化が起きているかどうかをチェックすることが大切である。
子宮頸がんは初期の段階では自覚症状がないので、よけいに検診が重要になる。すでに性体験のある人なら2年に1回の頻度で検診を受けたほうがよい。検診では細胞診を行うのが一般的である。万一、細胞診の検査で異常を指摘された場合は、そのすべてにがんが検出されるわけではないので怖がらず必ず精密検査を受けること。
一方、女性ホルモンのバランスの崩れが原因で発症する子宮体がんも増えている。40年前には、子宮がんといえば子宮頸がんがほとんどであり、子宮体がんになる患者は子宮がん全体の3%ほどであった。しかし、最近では子宮体がんが子宮がん全体の半分以上を占めるまで増加している。発症する年齢は、50歳代がもっとも多く、その75%は閉経した女性である。
子宮体がんの原因には、すべてではないが、女性ホルモンが大きく関係していると考えられており、若くして子宮体がんになる方の多くは、月経周期が不規則であることが知られている。月経不順や不正出血があったら子宮体がんの検査を受けることが、早期発見のポイントと言える。
子宮体がんは、初期の段階から不正性器出血が見られるのが特徴であるため、不正性器出血が見られたら、婦人科を受診するほうがよい。特に閉経後に出血が見られた場合、たとえ少量でも婦人科を受診することが大切と言う。ちなみに一般的に行われている「子宮がん検診」とは、子宮頸がんの検査のこと。子宮体がんと子宮頸がんは、検査方法や治療方法などが異なるため、子宮がん検診を受けて異常なしといわれても、子宮体がんではないということではない。その点、誤解しないよう注意が必要である。
「子宮は妊娠出産にかかわるため、病気によってその人の人生や暮らしも変わってしまうかもしれません。そうしたことにならないためには、日ごろから自分自身の体の変化に敏感であることや、婦人科の病気について正しい知識を持つことが大切です。また、どこかに異常がある場合、女性の体は病気の種類に限らずなんらかのサインを発します。そのサインに自分ではなかなか気づかないという場合も多いのですが、まずは、ささいな変調を見逃さないようにすることが、自分の体を守るのに重要です。月経周期が乱れていたり月経とはちがう出血があったり、あるいは性交時に出血がある場合など、何か病気のサインであることが少なくありません。ほかにもおりものの色やにおい、量の変化や下腹部の痛み、腰痛、性交痛などの痛み、下腹部の腫れやしこりなど、何か気になることがあったらすぐに婦人科の受診をお勧めします」と青木医師は言う。

当科での子宮がんの診断法や治療法には次のようなものがある。
・がんクリニーク(コルポ診、細胞診、組織診)…子宮がん検査には、子宮頸がん検査と子宮体がん検査の2種類がある。他院から子宮頸がん、体がんの疑い、またはそれぞれの前がん病変の疑いにて紹介される方に対して、綿密な検査を行う。また近年、子宮頸がん、体がんともに若年での発症が問題になってきており、初診または再診を受診された方の中で不正性器出血が見られる方には、両方のがん検査を強く勧めている。また卵巣腫瘍、子宮筋腫、子宮内膜症、月経異常などが認められる方々に対しても、適宜がん検査を施行している。一人の検査時間は約5分から10分かかるため、あらかじめ30分間単位で複数の方々の予約をとる完全予約制で行っている。
・がん検査
1)子宮頸がん検査:まず子宮頸部の細胞診を行った後、腟拡大鏡(コルポスコープ)検査を行い、子宮頸部異常病変の存在部位、異常程度を把握し、異常病変部位の組織を生検する(組織診)。これらの検査はほとんどの方が痛みを感じない。
2)子宮体がん検査:子宮内腔に細胞診用検査器具、または組織診用検査器具を挿入し、細胞診または組織診、あるいは両方の検査を行う。子宮頸部の管状部分が狭い方(未産婦の方、閉経後の方など)の場合は、器具を挿入する際に多少痛みを感じることもある。
がん検査は2週間程度で結果が判明するので、がんクリニーク担当医、または、初診・再診の担当医から結果を説明する。
・子宮鏡…子宮筋腫(とくに粘膜下筋腫とよばれる子宮の腔内にできる筋腫)、子宮内膜ポリープ、子宮内膜増殖症、子宮体がんなどの疾患、また子宮体がんの検査(細胞診)にて疑陽性の症例などを対象としてこれらの病変の子宮内における存在や広がりを観察するための内視鏡検査である。子宮の奥にできる子宮体がんについては、子宮の奥の観察のみならず、子宮の入口に近い頸部にまでがんが進んでいないか否かを診断するため、画像検査であるMRI検査とならんで重要な検査となる。
当科では子宮鏡検査を1980年頃より行っており、現在年間約200~250人の患者に行っている。この検査は痛みはほとんど伴わないため、無麻酔で外来で行っている。検査時間は約5~10分間で患者の子宮内の病変はモニターテレビに映され、検査を行う医師のみではなく複数の医師や看護師が同時に観察することが可能になっている。内視鏡検査の器械は光学器械の進歩などによって画質や画像の記録方法も進歩し、子宮鏡検査の画像記録は医療情報システム(電子カルテ)に保存するシステムをとっており、画像記録したイメージを患者に見てもらいながら説明をするようにしている。
・子宮頸部円錐切除術…子宮頸部の前がん病変である高度扁平上皮内病変や子宮頸部の初期がんである微小浸潤がんなどに対して最高病変の診断や治療目的で行われる検査・手術である。レーザー子宮頸部円錐切除術は子宮の入口部分である子宮頸部だけを円錐形に切除するもので、子宮は温存されるため、子宮温存手術とよばれている。お腹を切る手術と異なり、レーザー円錐切除術は産婦人科外来の診察時と同様の体位で行われる。ただし、当科では原則として入院、腰椎麻酔でおこなう。手術後は2日で退院となる。近年、女性の結婚年齢、出産年齢の上昇などに伴って、子宮頸部の扁平上皮内病変や初期がんに対する子宮温存療法の必要性は高まっており、事実20代や30代でレーザー円錐切除術が必要となる患者が増加している。また、妊娠初期に子宮頸部の初期がんが発見され、特に浸潤が強く疑われる場合、当科では妊娠中にレーザー円錐切除術を行い、浸潤がんの有無を確認するようにしている。当科では現在年間約300例の子宮頸部円錐切除術を施行しており、国内では最も多い件数の病院の一つとなっている。
 当科で子宮がんの治療を受けた患者も、その後特殊外来にてフォローアップする体制を整えている。子宮頸部腫瘍外来は子宮頸部の前がん病変である扁平上皮内病変の患者や子宮頸がんの治療後の患者を対象とする外来で、子宮頸部円錐切除術を施行した患者も、この専門外来で厳重にフォローアップし、再発の有無などを検査するシステムをとっている。ほかにも子宮体部腫瘍外来では、子宮体がんの治療後の患者のフォローアップだけでなく若年早期子宮体がんの妊孕性温存療法を行っている。治療後の患者を対象に、卵巣腫瘍外来は、当科で卵巣がんの治療を受けた患者の管理を系統的に行うために設けられた外来である。

医師プロフィール

1982年 慶應義塾大学医学部 卒業
1988年 La Jolla Cancer Research Foundation(現・Sanford-Burnham Medical Research Institute)留学
1990年 国立東京第二病院(現・独立行政法人国立病院機構東京医療センター)勤務
1991年 慶應義塾大学医学部産婦人科助手
1996年 慶應義塾大学医学部産婦人科講師
2005年 慶應義塾大学医学部産婦人科教授