急性呼吸促迫症候群(ARDS)〔きゅうせいこきゅうそくはくしょうこうぐん(えーあーるでぃーえす)〕 家庭の医学

 急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)は、心不全のない状況下で両側の肺に浸潤(しんじゅん)影が出現し、急速に低酸素状態の呼吸不全になる病気です。

[原因]
 ARDSの発症のしくみは、なんらかの傷害物質により肺血管から血液成分が漏れやすい状態になり、液体成分が血管から肺胞の中へ漏れ出して貯留すると考えられています。
 原因となる病気は、肺の感染、胃液の逆流による肺への誤嚥(ごえん)、胸部の打撲、脂肪塞栓、有毒物質の吸入、全身感染としての敗血症急性膵(すい)炎などがあります。これらの病気によってARDSは発症しますが、時間経過とともに起こる肺の組織変化は原因となる病気の違いにかかわらずほぼ共通しています。
 肺の組織像はびまん性肺胞傷害(diffuse alveolar damage:DAD)といわれる形態学的変化をたどります。一般的には発症6日までの急性期、発症4~10日までの亜急性期、8日以降の慢性期といった3つの病期に分けることができます。

[症状][診断]
 急激に呼吸困難で発症し、進行も早く、高度な低酸素状態におちいります。胸部X線検査で両側の肺全体に浸潤影が観察されます。心臓の病気でも類似した症状がみられますので、心電図心臓超音波(エコー)検査などで心臓の病気でないことを確かめることが必要です。


[治療]
 あきらかに有効である薬物治療はありません。副腎皮質ステロイドの大量療法は推奨されませんが、相対的副腎不全に対する少量副腎皮質ステロイド療法は考慮してもよい治療法です。
 また、人工呼吸器での管理を余儀なくされる場合がありますが、肺に人工的な傷害を与えないように少ない換気量の設定でおこなうことが推奨されています。通常の呼吸器管理では対応できない重症のARDSではECMO(体外式膜型人工肺)が適応になります。

(執筆・監修:順天堂大学大学院医学研究科 准教授〔呼吸器内科学〕 田島 健)
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