肺がん〔はいがん〕

 肺がんは、肺から発生する「原発性肺がん」と、大腸や乳腺など他の臓器にできたがんが肺へ転移し発育、進行する「転移性肺がん」に分けられます。気管にできるがんを「気管がん」と呼ぶこともあります。

[原因]
 喫煙と肺がんの発生にはきわめて密接な関係のあることが知られています。すなわち、喫煙量が多くなるにつれ肺がんの発生頻度が高くなり、1日の喫煙本数と喫煙年数をかけた数値が400以上であると発がんの危険性があると考えられています。喫煙のほかには、職業性曝露(ばくろ:吸引または浴びること)物質として、クロム、ニッケル、ヒ素、マスタードガス、放射性物質、クロロメチルエーテル、アスベストなどが指摘されています。
 肺がんは、組織学的に腺がん、扁平上皮がん、小細胞がん、大細胞がんの4種類に分けられ、腺がんがもっとも多いタイプです。
 がんの発生部位としては太い気管支である気管から区域気管支に発生をみるものを肺門型肺がん、それより肺の奥にある末梢領域に発生したものを肺野型肺がんと呼んでいます。肺門型では扁平上皮がんや小細胞がん、肺野型では腺がん、大細胞がんが多い傾向にあります。そして、特に、扁平上皮がんや小細胞がんで、喫煙との関連が強いといわれています。
 治療効果や病気のたどる経過の違いから、扁平上皮がん、腺がん、大細胞がんを非小細胞がんとして一括し、小細胞がんとは区別して取り扱われています。

[症状][診断]
 症状は、一般的に無症状のことが多いのですが、進行するにしたがい腫瘍の発生した部位や転移の場所により、せき、血たん、胸痛、発熱、呼吸困難、声がれなどがみられます。扁平上皮がんでは気管支を閉塞し、肺炎や無気肺を生じて発見されることもありますが、腺がんは無症状で健康診断にて発見されることが多いです。
 胸部単純X線検査胸部CT検査でがんのような異常陰影が見つかった場合には診断のために、気管支鏡での生検や胸部CT下に針生検をおこない、腫瘍組織を採取して病理学的に診断をします。

 PET(positron emission tomography)検査は、異常陰影が悪性か良性かの鑑別や病気のひろがり(転移の有無)の評価に有用です。

[治療]
 治療は病気の進行度により決定されます。

 非小細胞がんに対して、早期であれば完全に治ることを期待して外科的切除を施行します。基準として肺がんが片側の肺に限られているⅢA期までは外科的切除療法が検討されます。しかし、ⅢA期まででも病気の場所、肺や心臓の機能が不十分などで外科切除が選択困難な場合があります。外科切除困難な場合やⅢB期以上で病期の進んだものでは抗がん薬治療や放射線療法の治療が主体となります。
 近年では、化学療法以外に分子標的治療や免疫療法などの新しい抗がん治療薬が開発され、いちじるしい効果がみられる例が知られるようになりました。がん細胞特有の分子をねらって効率よく攻撃する薬である分子標的治療薬では、がん組織の遺伝子の異常を確認する必要があります(遺伝子検査)。いっぽう、新しい治療薬は化学療法より副作用は少ないといわれますが、湿疹、下痢、甲状腺機能異常、糖尿病など通常の抗がん薬では頻度の少ないものがみられます。分子標的治療薬や免疫療法薬では、間質性肺炎などの副作用が知られており、時として致命的ともなるので、十分に医師と相談しながら使用する必要があります。
 小細胞がんは進行が早く、ほかの臓器に転移していることも多いので、化学療法や放射線療法が治療の基本となります。
 抗がん薬の種類については年齢や体力や以前からの持病などを考慮して選択します。
 もし抗がん薬の副作用に耐えられない場合は、症状緩和を中心におこなったほうがよい場合もあります。

(執筆・監修:順天堂大学大学院医学研究科 准教授〔呼吸器内科学〕 宿谷 威仁)
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