毛・爪の異常 家庭の医学

 内分泌の異常により、毛が薄くなったり、色が変わったり、脱毛したりすることがあります。甲状腺機能低下症では、まゆの外側3分の1が脱毛し、むくみ(粘液水腫)を生じます。出産の際の大出血で発症するシーハン症候群では、下垂体の前葉に虚血性壊死(えし)が起こり、無気力や低血圧が主症状ですが、わき毛や陰毛がなくなる特徴があります。出産と関係のない下垂体前葉機能低下症では脱毛がみられ、病変が下垂体から視床下部まで及ぶと、やせてきます。
 逆に、毛が多く、濃く、かたくなることがあります。主として副腎の病気でみられます。クッシング症候群では、顔が赤く満月様で、肩や腹は局所的に肥満し、にきびが顔や背中にたくさん出ます。顔や背中、下腿(かたい)が毛深くなり、局所的な肥満のため腹部や、上下肢の付け根付近や下腿部に皮膚の割れたあとである線条ができ、上下肢に皮下出血がよく起こります。
 副腎性器症候群は、子どもにみられるまれな病気で、副腎でつくられるアンドロゲン(男性ホルモン)の分泌過剰のために、特に男性化の性徴異常、すなわち男子では性早熟、女子では陰核の肥大や多毛症などがみられます。
 白髪は、高齢になると生理的にもふえますが、遺伝的に若しらがになる人もあり、消耗性の大病や精神的労苦のあと、急にふえることもあります。
 貧血のときや鉤虫症(こうちゅうしょう)のときに、爪がスプーン状に反りかえることがあります。反対に、チアノーゼのある心臓の病気や肺の病気のときには、爪が大きく丸味をおびてきます(太鼓ばち指)。

■毛・爪の異常
症状病名そのほかの症状など
毛が薄い、脱毛甲状腺機能低下症むくみ、汗が少ない、眠け、不活発、さむがり
シーハン症候群出産時の大出血、無月経
下垂体前葉機能低下症疲れやすい、低血圧、筋力低下
毛が多く、濃く、かたいクッシング症候群円形顔貌、皮下出血、肥満、皮膚の赤い線条、高血圧
先天的副腎過形成子ども、男性化
爪が反りかえる貧血疲れやすい、めまい、蒼白(顔いろ)、食欲がない、息切れ、脈が速い
鉤虫症胃腸症状、貧血
爪が丸く盛り上がる太鼓ばち指酸素不足をきたす、心肺疾患


(執筆・監修:公益財団法人 榊原記念財団附属 榊原記念病院 総合診療部 部長 細田 徹