腰の痛み 家庭の医学

 脊柱(背骨)が起立状態を保持するだけでも、背筋は常にはたらいており、筋肉の疲労は鈍痛として感じられます。したがって、中腰などの不自然な姿勢で作業すればいうまでもなく、全身性疾患や肥満があって筋肉が疲労しやすい状態であれば腰痛が生じます。
 ちょっとした動作で激痛を起こし、身動きできなくなることがあります。急性腰痛症(ぎっくり腰)です。腰の痛む側の下肢のうしろ側に沿って痛みが走る場合は、腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアの可能性があります。重症では下肢がしびれることがあります。
 動作を始めるときに痛み、あとで軽くなる場合には、変形性腰椎症が考えられます。また、骨密度が低下する骨粗鬆症(こつそしょうしょう)では、脊椎圧迫骨折を生じて激しい腰痛が起こることがあります。腰椎分離症の腰痛は、原因が判明しにくいものの一つです。
 中年以降の人にがんこな腰痛が続き、安静にしていても痛むなら、がんの脊椎転移や脊髄腫瘍、多発性骨髄腫などの可能性があり、下肢の脱力やまひ、排尿困難、便秘などを伴うことがあります。
 脊椎カリエスは、肺の結核から起こる感染症です。脊椎が一般の化膿(かのう)菌の感染を受けることもあります。強直(きょうちょく)性脊椎炎は、文字どおり背中が曲がりにくくなる、成人男子に多い病気です。
 また、神経や筋肉の病気のなかには、腰部や臀部(でんぶ)の筋萎縮(いしゅく)や筋力低下をきたすものがあり、腰痛の原因となります。

■腰の痛み
症状病名そのほかの症状など
ちょっとした動作から激痛急性腰痛症(ぎっくり腰)急激な痛みで動けない
腰椎椎間板ヘルニア下肢に痺れ、つっぱり
動作のはじめに痛む変形性腰椎症腰椎の彎曲
脊椎圧迫骨折しりもちの既往、背中をたたくと痛む、高齢者
腰から下肢に及ぶ不定の痛み腰椎分離症腰椎のでっぱり、慢性の痛み
腰部脊柱管狭窄症歩行で痛みが増強
がんこな激痛がんの脊椎転移下肢のまひ、排尿・排便困難
脊髄腫瘍下肢のまひ、排尿・排便困難
多発性骨髄腫高齢者、貧血
背中のつっぱり、腰が曲げにくい脊椎カリエス肺結核の家族歴や既往、微熱
化膿性脊椎炎高熱、たたくと痛む
強直性脊椎炎背中が曲がらない、伸びない
不自然な姿勢での筋肉の疲労神経筋疾患手の筋力低下、筋萎縮、肩こり、舌のしびれ
脊柱側彎症脊椎の彎曲、背中の変形
先天性股関節脱臼脚の長さが違う
妊娠下肢のむくみ、腹部膨隆、月経がない
腹部疾患からの痛み腎結石血尿、片側性
尿管結石背中をたたくと痛い、血尿、片側性
腎盂腎炎発熱、背中をたたくと片側が痛む、尿の濁り
急性虫垂炎右下腹部痛、押さえると痛む、吐き気・嘔吐、発熱
十二指腸潰瘍空腹時痛
膵臓の病気腹痛、脂肪便、下痢
大動脈解離突発する激しい胸痛・背腰痛、ショック
月経困難症月経周期と一致
子宮後屈不妊
異所性妊娠(子宮外妊娠)下腹部痛、不正出血、破裂するとショック


(執筆・監修:公益財団法人 榊原記念財団附属 榊原記念病院 総合診療部 部長 細田 徹