腹のしこり 家庭の医学

 上腹部に触れるしこりは、胃がん、膵(すい)がん、肝がんの可能性があります。初期のがんでは症状があまりあらわれず、胃がんが触れる程度にまで進むと、だるさや貧血などの症状を伴うのがふつうです。
 右上腹部のこぶは、肝臓、胆嚢(たんのう)、結腸、腎臓などのがんである可能性があります。胆嚢がはれて触れる場合は、痛みや黄疸(おうだん)を伴うのがふつうですが、高齢者では痛みをうったえないこともあります。膵臓では、以前に受けた外傷がもとで大きくはれるものがあります。
 左上腹部のしこりは、脾(ひ)臓や腎臓の腫瘍、?胞腎(のうほうじん)などが原因になります。
 腹の中央部にかたいこぶが触れ、脈といっしょに拍動している場合は、大動脈瘤(りゅう)が疑われます。

 女性で下腹部にしこりが触れる場合、まず妊娠の可能性を考えます。病気としては、卵巣嚢腫(のうしゅ)や子宮筋腫(きんしゅ)があり、非常に大きくなる場合があります。
 右下腹部のこぶとしては、虫垂炎のあとの場合がありますが、回盲部がんとの区別は容易ではありません。医療機関を受診しましょう。
 左下腹部には、直腸がんやS状結腸がんを触れる可能性があり、医療機関を受診したほうがよいでしょう。

 遊走腎といって、腎臓が非常に動きやすく、腹であちこち位置を変え、こぶとして触れる場合があります。大便が腹にたまってこぶのように感じられる場合も、移動性のものであり、心配はありません。

■腹のしこり
症状病名そのほかの症状など
上腹部のしこり胃がん食欲不振、体重減少、吐血、吐き気・嘔吐、黒色便、胸やけ
膵がんやせ、食欲不振、便通異常
肝がん黄疸、やせ、食欲不振、疲れやすい
右上腹部のしこり胆嚢がん右上腹部不快感
胆管がん黄疸
左上腹部のしこり脾臓の腫瘍左上腹部不快感
腎がん血尿
多発性嚢胞腎多尿、血尿、両側性
中央部のしこり大動脈瘤拍動性腫瘤、食道の外からの圧迫
下腹部のしこり妊娠下肢のむくみ、腹部膨隆、月経がない
卵巣嚢腫片側性、寝るとひっこむ
子宮筋腫貧血、月経過多
直腸がん血便、便秘
左・右下腹部のしこり大腸がん食欲不振、やせ、便秘、血便
部位不定のしこり遊走腎体位で動くしこり


(執筆・監修:公益財団法人 榊原記念財団附属 榊原記念病院 総合診療部 部長 細田 徹