ハンタウイルス肺症候群〔はんたういるすはいしょうこうぐん〕 家庭の医学

 ブニヤウイルス科、ハンタウイルス属のウイルスによる急性呼吸器感染症で、現在アメリカあるいは一部南米の国で発生がみられます。前駆症状として、発熱と筋肉痛が100%にみられます。ついで、せき、急性に進行する呼吸困難が特徴的です。
 消化器症状および頭痛が70%以上にみられます。もっともありふれた症状は頻呼吸(100%)、頻拍です。半数に低血圧などを伴います。発熱・悪寒(おかん:さむけ)は1~4日ほど続き、ついで進行性呼吸困難、肺水腫、肺浮腫になります。
 早い場合は、発熱など発症後24時間以内の死亡も頻繁にみられます。胸部X線検査で胸水の貯留した特徴的な像がみられます。死亡率は約60%という報告もあります。
 感染経路としては、手足の傷口からウイルスに汚染されたネズミの尿、唾液が接触して入る、ネズミにかまれる、ウイルスを含む尿、唾液により汚染されたほこりを吸い込むなどによりますが、汚染されたほこりを吸い込むことによる感染がもっとも多いと考えられています。
 媒介動物は、アメリカではシカシロアシネズミがウイルス保有動物としてもっとも一般的とされていますが、ウイルスを媒介するこの群のネズミはアメリカ、カナダ、南米(チリ、アルゼンチンなど)にも存在します。患者発生は雨量の多い年と関連していると考えられています。

(執筆・監修:熊本大学大学院生命科学研究部 客員教授/東京医科大学微生物学分野 兼任教授 岩田 敏)
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