ボツリヌス症〔ぼつりぬすしょう〕 家庭の医学

 ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)の出すボツリヌス毒素によって起こる、神経・筋のまひ性疾患です。
 ボツリヌス菌は土の中や動物の腸管に存在し、熱や乾燥に強い芽胞(がほう:細胞内にある胞子に似た球状の耐久性の高い構造体)を形成し、過酷な環境でも生き延びることができます。この菌は神経をおかす毒素を産生するため、食品中でボツリヌス菌が増殖して産生された毒素を経口摂取することによって起こる食餌性ボツリヌス症(ボツリヌス中毒)の場合、通常12~24時間の潜伏期を経て発症し、胃腸症状のほか、物が二重に見えたり(複視)、眼瞼(がんけん)下垂、嚥下(えんげ)障害、構音障害などの神経症状を呈します。重い場合は、呼吸筋まひで死亡する危険があります。発熱はみられません。また、1歳未満の乳児が菌の芽胞を摂取することにより、腸管内で芽胞が発芽し、産生された毒素の作用によって発症する乳児ボツリヌス症の場合は、便秘症、全身の筋力低下、鳴き声が弱くなるなどの症状が特徴的で、時に乳児突然死症侯群の原因となる場合があります。
 食餌性ボツリヌス症の原因食物として多いのは「いずし」やソーセージです。酸素濃度の低いところを好むため、真空パック製品の中でも増殖し毒素をつくるので、真空パックをするときの殺菌が重要です。これまでに真空パックの「からし蓮根」で発生したことがあります。また乳児ボツリヌス症の原因食品としては、はちみつが知られています。はちみつにはボツリヌス菌の芽胞が含まれている可能性があるので、1歳未満の乳児にはちみつを与えるのは避けるようにしましょう。
 菌は芽胞になると100℃で生き残ることがありますが、ボツリヌス毒素は黄色ブドウ球菌が産生するエンテロトキシンと異なり、100℃1分で活性が失われます。
 毒素による中毒なので抗菌薬は効かず、抗血清薬を使用します。呼吸障害がある場合は、人工呼吸器による補助呼吸が必要となります。
 黄色ブドウ球菌食中毒とならび毒素性食中毒の代表です。

(執筆・監修:熊本大学大学院生命科学研究部 客員教授/東京医科大学微生物学分野 兼任教授 岩田 敏)
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