A型肝炎〔えーがたかんえん〕 家庭の医学

 A型肝炎ウイルスによる急性ウイルス性肝炎です。
 感染者の糞便中にウイルスが排泄され糞口感染で伝播するので、患者の発生は衛生環境に影響されやすく、開発途上国では水系感染によりまん延しやすい状況にあります。先進国では、上下水道などの整備により感染者は激減しています。感染期間は、ウイルスが便に排泄される発病の3~4週間前から発症後数カ月にわたるとされています。
 国内では、年間100~500人前後の患者報告数があり、主要な感染源は牡蠣(かき)やなんらかの飲食物(おそらく海産物)によるものです。同性間性的接触による感染もみとめられています。患者全体の約15%が海外渡航からの帰国者であり、多くは中国、インド、東南アジア地域での感染です。
 潜伏期は2~6週間(平均4週間)で、発症すると発熱、倦怠(けんたい)感などに続いて食思不振、嘔吐(おうと)などの消化器症状を伴う肝機能障害が出現し、典型的な例では黄疸(おうだん)、肝腫大がみとめられます。ほかのウイルス性肝炎とくらべ、発熱、頭痛、筋肉痛、 腹痛などの症状が強いのが特徴です。慢性化することはなく、多くの場合1~2カ月の経過で回復します。まれに劇症肝炎となり死亡することがありますが、韓国では生体肝移植で生存した例が複数報告されています。いっぽう、小児では感染したにもかかわらず感染症状が出てこない不顕性感染や軽症のことが多いようです。
 診断は糞便や血液からのウイルス遺伝子の検出、血中のウイルス抗体の測定によりおこないます。
 特異的な治療法はなく、対症療法のみとなります。ワクチンによる予防が可能ですので、流行地に渡航する場合は、あらかじめワクチンを接種しておくことが推奨されます。

【参照】肝臓と胆道の病気:急性肝炎

(執筆・監修:熊本大学大学院生命科学研究部 客員教授/東京医科大学微生物学分野 兼任教授 岩田 敏)
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