ダニ媒介脳炎〔だにばいかいのうえん〕 家庭の医学

 ダニ媒介脳炎は、フラビウイルス科フラビウイルス属に属するダニ媒介脳炎ウイルスによりひき起こされる感染症であり、おもなものとして中央ヨーロッパダニ媒介脳炎とロシア春夏脳炎があります。
 1993年以降、世界で毎年1万人以上が発症しています。わが国でも、1993年北海道で患者が発生した報告があり、北海道におけるウイルスの存在が確認されています。自然界では、マダニとネズミなどのげっ歯類の間でウイルスの生活環が成立しており、キツネやシカ、コウモリなど多くの哺乳類がウイルスの生活環に関与していると考えられています。人への感染はおもにマダニにかまれることによりますが、感染したヤギやヒツジの生乳からの感染の報告もあります。人から人への感染の報告はありません。
 人に感染したときの潜伏期は通常7~14日です。中央ヨーロッパダニ媒介脳炎では、発熱、筋肉痛などのインフルエンザ様症状が出現し、2~4日間続きます。症例の3分の1では、その後数日たって第Ⅱ期に入り、髄膜脳炎を生じてけいれん、めまい、知覚異常などを呈します。致死率は1~2%ですが、神経学的後遺症が10~20%にみられます。
 ロシア春夏脳炎では、突然に高度の頭痛、発熱、悪心(おしん)、羞明(しゅうめい:まぶしさを強く感じること)などで発症し、その後順調に回復する例もありますが、髄膜脳炎に進展し、項部硬直(くびすじがかたくなること)、けいれん、精神症状、頸(けい)部や上肢の弛緩性まひなどがみられます。致死率は20%にのぼり、生残者の30~40%では神経学的後遺症をきたします。

(執筆・監修:熊本大学大学院生命科学研究部 客員教授/東京医科大学微生物学分野 兼任教授 岩田 敏)
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