おもな症状と手当て
■なんとなくようすがおかしい
日ごろからよく観察していれば、「なんとなくふだんとようすが違っておかしい」と判断できるときがあります。特に乳幼児で反応がにぶいとか、いつもは寝ない時間帯なのに眠そうだとか、哺乳や食事のようすが違ってなにかがおかしいと感じたら、受診してください。
■顔いろがおかしい
暗紫色…チアノーゼといいます。口唇、爪などにあらわれますが、顔面全体になることもあります。広い範囲のほうがより重度です。小児に急に生じた場合には、呼吸に重大な問題が生じた可能性があります。強く泣き続けた直後に紫色になりすぐ戻るなら憤怒けいれんですが、それ以外の場合は受診が必要です。
蒼白(そうはく)…急に蒼白になる原因はいろいろです。低血糖、てんかん発作、敗血症などで起こります。蒼白が一瞬ではなく持続するときには受診してください。憤怒けいれん(泣き入りひきつけ)でも蒼白型があります。大泣きした直後に生じたのなら戻るまで見守ってください。
黄疸(おうだん)…多くは新生児期、産科を退院した後に気がつきます。大部分は母乳性黄疸ですが、まれに家族性黄疸など精査が必要な場合がありますから、受診が必要です。新生児期以降に目の白い部分が黄色い、肌が黄色いといったことに気づいた場合には、肝疾患の検査が必要です。手掌(しゅしょう:てのひら)だけが黄色い場合は柑皮(かんぴ)症といって、みかんなどのかんきつ類に含まれるカロテンのとりすぎによるものなので、心配はいりません。
■哺乳不良
感染症もないのに哺乳不良が持続する場合は、心不全、神経筋疾患、代謝性疾患などの病気の可能性があり、受診が必要です。急性の哺乳不良は呼吸器感染、胃腸炎、尿路感染、髄膜炎などの感染症が考えられます。発熱がなくても哺乳不良が2~3日続くと脱水におちいることがありますし、低血糖を生じることもあります。ふだんの量の半分以下の場合、尿の回数や量が少ない場合は受診が必要です。
■発熱
子どもの受診のうったえでもっとも多いのが発熱です。わきのしたではかって37.5℃以上を発熱と考えます。それ以下ではほとんどの場合、心配はいりません。平熱が低い場合には、平熱よりも1℃以上高ければ発熱と考えます。
乳児は体温調整がうまくできないので、高温環境だと体温が上昇し、低温環境だと低体温になります。季節を問わず自動車内には絶対に放置してはいけません。春、秋でも直射日光が入る車内は60℃にも達することがあり命にかかわりますし、冬だと低体温症になり危険です。
解熱薬の使いかた…発熱は病気のサインとして重要ですし、発熱はからだの防御反応ですから、むやみに薬で熱を下げる必要はありません。1歳未満は薬に過剰に反応することがありますから使わないほうが安全です。診察で病気の状態が把握されてから、医師の指示のもとで安全に使用してください。原則として熱で水分がとれないとき、睡眠がさまたげられて体力が消耗すると考えられるときに、1℃ほど下げるつもりで使用します。処方量を使用して平熱以下に下がったりした場合には、次回は少なく処方してもらいます。
解熱薬は一度使用したら6時間以上あけるのが原則です。子どもにはアセトアミノフェンが第一選択です。それ以外の処方の場合、子どもには重大な副作用が出ることがありますので、処方理由を医師に確かめてください。
冷やす…発熱の場合に氷枕が使われることがありますが、あくまでそれで気分がよければというくらいで解熱効果はありません。額に貼るタイプの市販品も同様です。これは乳幼児では鼻にずれると密着して危険です。高温のときにはわきのした、くびの前面を冷やす程度にします。熱があっても水分が十分とれていれば無理に熱を下げようとする必要はありません。
高熱だけのときには、まず水分摂取を心掛けます。胃のはたらきもわるくなっているので、胃の中にたまりやすい乳製品は何時間もたってから嘔吐(おうと)することがあります。このような場合には、りんごジュースやイオン飲料のように飲みやすくて吸収が早く胃を通過しやすいものを与えてください。嘔吐や下痢が頻回の場合には、水分と電解質が失われますので、乳幼児向きの経口補水液をごく少量ずつ、頻回に与えます。市販の経口補水液は家に置いておくといざというときに便利です。
■嘔吐
乳児は胃が垂直位であったり、食道と胃の境目の括約筋(かつやくきん)がゆるいことなどから、嘔吐しやすいのが特徴です。哺乳後にからだを動かした拍子にちょっと吐く程度なら問題ありません。
嘔吐の原因…急性の嘔吐は、胃腸炎がほとんどですが、腎盂腎炎(じんうじんえん)、髄膜炎、代謝性疾患などのこともあります。高熱に伴って嘔吐がある場合、くり返す嘔吐の場合には受診が必要です。何日も嘔吐だけをくり返す場合は、乳児では肥厚性幽門狭窄(ひこうせいゆうもんきょうさく)、胃軸捻などの消化管の異常、水頭症のような神経疾患、先天代謝異常などがあります。原因によって治療が異なりますので、受診が必要です。
胃腸炎による嘔吐…まず、嘔吐がおちつくまで、哺乳や食事はやめます。やめている間は水分だけをごく少量ずつ回数を多くしてあげます。水分は水、白湯(さゆ)、イオン飲料、麦茶などですが、嘔吐をくり返すときや嘔吐が2日以上続くときには経口補水液が適しています。スポーツドリンクよりも市販の子ども用経口補水液が補充すべき電解質をより多く含み適切です。あたたかい水分よりも冷たい水分のほうが飲みやすければ好むほうでけっこうです。哺乳、食事の再開は水分摂取後、半日吐かないことを確かめてから少量ずつ始めます。嘔吐が続き水分もとれないときには点滴が必要になります。
■下痢
乳幼児では嘔吐と並行して起きることが多く、年長児では下痢だけのこともあります。慢性の下痢は、乳幼児ならアレルギーや乳糖不耐症、代謝の病気などがあります。学童以降は、過敏性腸症候群も考えます。年齢によってさまざまな原因が考えられます。離乳食開始直後に便性がゆるくなり頻回になることもあります。繊維質に慣れていないためです。しばらくおかゆなどだけで様子をみて、便性が戻ったら、繊維質を含むイモ類・野菜類は少量ずつから再開します。
胃腸炎による急性の下痢…嘔吐がなければ哺乳は続けて大丈夫です。ミルクも薄める必要はありません。哺乳ごとに水様性の下痢をするような状態であれば、脱水になりやすいので受診が必要です。このようなときには、いっとき哺乳を休むことで回復が早まりますが、哺乳や食事をとめるのは長くても2日間です。それ以上だと腸粘膜の回復が遅れて哺乳すると下痢する状態が長びくことがあります。食事をする年齢であれば、食事開始はおかゆなどからです。下痢どめの薬は通常は使用しません。特に2歳以下に使用すると腸閉塞などの危険がある下痢どめ薬もありますので、必ず医師の説明を十分に聞いてから処方薬を使用してください。
血便をともなう下痢…感染性腸炎(食中毒)の可能性がありますので、受診が必要です。血便の性状を診ることは診断に有用ですので、便(あるいはおむつ)を持参するとよいでしょう。新生児ではミルクアレルギーで血便が出る場合があります。
■便秘
排便には個人差があります。2日に1回でも元気で問題がなければ、便秘とはいいません。排便がなくて腹部が膨満していたり、食欲が低下したり、腹痛があったり、排便時に痛かったり、肛門が切れたりするようなら治療の必要があります。
乳幼児ではがんこな便秘は先天性の大腸の病気であることもありますので、受診が必要です。幼児期以降では、生活習慣を見直すことで改善することもあります。脳性まひなどの運動機能の異常がある場合には便秘になりがちですので、必要に応じて緩下(かんげ)薬が処方されます。市販の浣腸剤をくり返し使用するのはよくありません。腸への刺激の少ない吸収されない新しいタイプの緩下薬もありますので、慢性便秘の場合には医師に相談してください。
■腹痛
年齢を問わず多いうったえですが、原因は年齢によってさまざまです。急性胃腸炎はどの年齢でももっとも多い原因ですが、乳幼児では腸重積が要注意です。突然不機嫌になり大泣きする、蒼白(そうはく)になるなどをくり返しているならその可能性があり、受診が必要です。子どもの虫垂炎は低年齢ほど穿孔(せんこう:孔〈あな〉があくこと)を起こしやすいので、強い腹痛が持続する場合、持続する腹痛がだんだん強くなる場合、嘔吐がある場合には受診が必要です。「おなかがいたい」といううったえでも幼児では腹部疾患ではないこともありますので、正確な診断が必要です。重症感がなくて「おなかがいたい」という短時間のうったえがくり返される場合には、心理的要因のこともあります。学童期以降では、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、胃潰瘍などもありえますので、くり返しうったえがある場合には受診が必要です。
■おなかがふくらんでいる
乳幼児期に多いうったえです。お風呂に入ったときに気づいたりします。強い便秘による場合もありますが、おなかの中に腫瘍があることもあります。日ごろ、おなかがやわらかい哺乳や食事前の時間に、おなかをまんべんなく軽く押して正常なときの感じを知っておくことは役に立ちます。いつさわっても硬く触れるような感じがしているときは受診が必要です。
■発疹
感染症…小児期には発疹(ほっしん)を伴う感染症が多数あります。麻疹(ましん:はしか)、風疹、水痘(すいとう:水ぼうそう)、手足口病、突発性発疹、溶連菌感染症などです。発熱を伴う場合には、まれに脳炎、髄膜炎や肺炎などの重篤な合併症を生じる感染症もありますし、登園や登校を休む必要がある感染症もありますので、受診が必要です。
発疹だけのとき…抗菌薬や解熱薬などの薬を服用したあとに顔、くび、前胸部などに発疹が出た場合には薬疹の可能性もありますので、受診したほうがよいでしょう。出たり消えたりをくり返す場合にはアトピー性皮膚炎、湿疹(しっしん)、じんましんなどがありえます。かくことでひどくなる場合がありますので、かゆみが強い場合は受診して悪化を防ぎます。特定の食物を食べたあとに出るじんましんは食物アレルギーが疑われますので受診が必要です。露出している腕などの一部にだけかゆい発疹が出た場合には、外部のなにかに触れたことによる接触性皮膚炎が考えられます。
■せき
発熱もなく軽度のせきだけであれば、急性咽頭炎の可能性があります。ようすをみていてもけっこうですが、発熱を伴い元気がない場合には受診してください。夜もせきで眠れない場合には肺炎の可能性があります。乳児は鼻炎を伴うと鼻づまりで呼吸が苦しくなりますから、哺乳量が減った場合には受診が必要です。食事中や遊んでいるときに急にむせ込んでその後ゼーゼーしている場合は、気道に物が入った可能性がありますので、すぐに受診が必要です。コオーンコオーンという犬の遠吠えのようなせきは百日せきのこともありますから、つらそうなときや、哺乳量、摂食量が減っているときは受診してください。子どもではせきどめは通常処方せず、去痰(きょたん)薬が適しています。
■喘鳴(呼吸ごとにゼーゼーすること)
出生直後からゼーゼーした呼吸をしているとき…先天性喘鳴(ぜんめい)といって、筋力が弱い場合、下あごが小さくて気道が狭い場合など、さまざまな原因で生じます。原因をあきらかにする必要がありますが、多くの場合は成長とともに軽快していきます。
息を吸うときにゼーゼー、ヒューヒューするとき…クループ症候群といってのどの奥(喉頭)が感染で狭くなってしまった際に生じます。重度では窒息状態になってしまうために、すぐに受診が必要です。
息を吐くときにゼーゼー、ヒューヒューするとき…乳児ではRSウイルス感染で細気管支炎になったとき、急性気管支炎の中等度以上のとき(ぜんそく様気管支炎)、年齢を問わず、気管支ぜんそく発作のときにみられます。それぞれの病態で治療が異なります。子どものいる家庭ではたばこの煙は脳の発達にも呼吸器にも有害です。
■けいれん
熱性けいれん…主として6カ月から60カ月(5歳)の間に起きる38℃以上の発熱時のけいれんを指します。通常は2分以内でおさまりますが、時に5分以上続くことがあります。熱性けいれんだけでは脳に悪影響は残しませんので、慌てずに嘔吐(おうと)物でのどをつまらせないように顔を軽く横に向けてようすを観察してください。短時間でもくり返し生じる場合やけいれんが5分以上持続する場合には、脳炎脳症の鑑別が必要ですので受診してください。熱性けいれんと診断されていて、坐薬も処方されている場合には、その指示通りにしてください。24時間以内に2回以上、20分以上のけいれん、体温が37.5℃から38℃未満でのけいれん、6歳以上の熱性けいれんはその後の経過を医師がフォローする必要があります。
発熱のないけいれん…てんかん発作の可能性がありますから検査が必要です。
胃腸炎症状に伴うけいれん…軽症胃腸炎に伴うけいれんは、1~2歳児に特有の病態で、短いけいれん発作が群発しておどろかされます。適切な治療薬で治癒し、てんかんとは関係のない病態です。
■意識障害
呼吸をしていないようだったら…子どもは心臓からよりも呼吸からとまることが多いので、まず呼吸を確認し、呼吸をしていない、あるいは浅いようなら、心臓マッサージを開始します。救急車が来るまで心臓マッサージと人工呼吸を続けます。
発熱があったら…高熱でもうろうとする熱せん妄もありますが、脳炎・脳症、髄膜炎の可能性もありますので、ただちに受診が必要です。インフルエンザにかかって高熱のときには、突然走り出したり、高い所から飛び降りたりする異常行動がみられることがあるので、最低2日間は外に飛び出せない場所で寝かせるなど十分注意する必要があります。
けいれん後だったら…けいれん発作のあとの睡眠状態か異常な意識障害かは見分けがつきにくいのですが、顔いろが良く、熱もなく呼吸もいつものようであれば様子をみてもいいでしょう。ただし、翌日は必ず受診して診断と治療の方針を相談してください。
立っているときに倒れたら…学童期以降なら起立性調節障害の可能性があります。急な血圧低下で意識がなくなる状態です。くり返すようなら検査が必要です。過度に緊張したあと、腹痛や転んで痛みがあった直後、など一定の状況下で突然倒れて意識を失い、短時間で意識が戻ることがくり返される場合は、神経調節性失神の可能性があります。
胸にボールなどが当たった直後だったら…ボールなどが胸に当たった直後に意識を失って倒れたら心臓振とう(心室細動)を考えます。心臓が血液を送り出せなくなる重大な不整脈で、誰にでも起こりえます。救急車を呼びAEDを探し使用します。
炎天下だったら…熱中症が考えられます。救急車が来るまでは日陰に移し、あらゆる手段で体温低下につとめます。
日ごろからよく観察していれば、「なんとなくふだんとようすが違っておかしい」と判断できるときがあります。特に乳幼児で反応がにぶいとか、いつもは寝ない時間帯なのに眠そうだとか、哺乳や食事のようすが違ってなにかがおかしいと感じたら、受診してください。
■顔いろがおかしい
暗紫色…チアノーゼといいます。口唇、爪などにあらわれますが、顔面全体になることもあります。広い範囲のほうがより重度です。小児に急に生じた場合には、呼吸に重大な問題が生じた可能性があります。強く泣き続けた直後に紫色になりすぐ戻るなら憤怒けいれんですが、それ以外の場合は受診が必要です。
蒼白(そうはく)…急に蒼白になる原因はいろいろです。低血糖、てんかん発作、敗血症などで起こります。蒼白が一瞬ではなく持続するときには受診してください。憤怒けいれん(泣き入りひきつけ)でも蒼白型があります。大泣きした直後に生じたのなら戻るまで見守ってください。
黄疸(おうだん)…多くは新生児期、産科を退院した後に気がつきます。大部分は母乳性黄疸ですが、まれに家族性黄疸など精査が必要な場合がありますから、受診が必要です。新生児期以降に目の白い部分が黄色い、肌が黄色いといったことに気づいた場合には、肝疾患の検査が必要です。手掌(しゅしょう:てのひら)だけが黄色い場合は柑皮(かんぴ)症といって、みかんなどのかんきつ類に含まれるカロテンのとりすぎによるものなので、心配はいりません。
■哺乳不良
感染症もないのに哺乳不良が持続する場合は、心不全、神経筋疾患、代謝性疾患などの病気の可能性があり、受診が必要です。急性の哺乳不良は呼吸器感染、胃腸炎、尿路感染、髄膜炎などの感染症が考えられます。発熱がなくても哺乳不良が2~3日続くと脱水におちいることがありますし、低血糖を生じることもあります。ふだんの量の半分以下の場合、尿の回数や量が少ない場合は受診が必要です。
■発熱
子どもの受診のうったえでもっとも多いのが発熱です。わきのしたではかって37.5℃以上を発熱と考えます。それ以下ではほとんどの場合、心配はいりません。平熱が低い場合には、平熱よりも1℃以上高ければ発熱と考えます。
乳児は体温調整がうまくできないので、高温環境だと体温が上昇し、低温環境だと低体温になります。季節を問わず自動車内には絶対に放置してはいけません。春、秋でも直射日光が入る車内は60℃にも達することがあり命にかかわりますし、冬だと低体温症になり危険です。
解熱薬の使いかた…発熱は病気のサインとして重要ですし、発熱はからだの防御反応ですから、むやみに薬で熱を下げる必要はありません。1歳未満は薬に過剰に反応することがありますから使わないほうが安全です。診察で病気の状態が把握されてから、医師の指示のもとで安全に使用してください。原則として熱で水分がとれないとき、睡眠がさまたげられて体力が消耗すると考えられるときに、1℃ほど下げるつもりで使用します。処方量を使用して平熱以下に下がったりした場合には、次回は少なく処方してもらいます。
解熱薬は一度使用したら6時間以上あけるのが原則です。子どもにはアセトアミノフェンが第一選択です。それ以外の処方の場合、子どもには重大な副作用が出ることがありますので、処方理由を医師に確かめてください。
冷やす…発熱の場合に氷枕が使われることがありますが、あくまでそれで気分がよければというくらいで解熱効果はありません。額に貼るタイプの市販品も同様です。これは乳幼児では鼻にずれると密着して危険です。高温のときにはわきのした、くびの前面を冷やす程度にします。熱があっても水分が十分とれていれば無理に熱を下げようとする必要はありません。
高熱だけのときには、まず水分摂取を心掛けます。胃のはたらきもわるくなっているので、胃の中にたまりやすい乳製品は何時間もたってから嘔吐(おうと)することがあります。このような場合には、りんごジュースやイオン飲料のように飲みやすくて吸収が早く胃を通過しやすいものを与えてください。嘔吐や下痢が頻回の場合には、水分と電解質が失われますので、乳幼児向きの経口補水液をごく少量ずつ、頻回に与えます。市販の経口補水液は家に置いておくといざというときに便利です。
■嘔吐
乳児は胃が垂直位であったり、食道と胃の境目の括約筋(かつやくきん)がゆるいことなどから、嘔吐しやすいのが特徴です。哺乳後にからだを動かした拍子にちょっと吐く程度なら問題ありません。
嘔吐の原因…急性の嘔吐は、胃腸炎がほとんどですが、腎盂腎炎(じんうじんえん)、髄膜炎、代謝性疾患などのこともあります。高熱に伴って嘔吐がある場合、くり返す嘔吐の場合には受診が必要です。何日も嘔吐だけをくり返す場合は、乳児では肥厚性幽門狭窄(ひこうせいゆうもんきょうさく)、胃軸捻などの消化管の異常、水頭症のような神経疾患、先天代謝異常などがあります。原因によって治療が異なりますので、受診が必要です。
胃腸炎による嘔吐…まず、嘔吐がおちつくまで、哺乳や食事はやめます。やめている間は水分だけをごく少量ずつ回数を多くしてあげます。水分は水、白湯(さゆ)、イオン飲料、麦茶などですが、嘔吐をくり返すときや嘔吐が2日以上続くときには経口補水液が適しています。スポーツドリンクよりも市販の子ども用経口補水液が補充すべき電解質をより多く含み適切です。あたたかい水分よりも冷たい水分のほうが飲みやすければ好むほうでけっこうです。哺乳、食事の再開は水分摂取後、半日吐かないことを確かめてから少量ずつ始めます。嘔吐が続き水分もとれないときには点滴が必要になります。
■下痢
乳幼児では嘔吐と並行して起きることが多く、年長児では下痢だけのこともあります。慢性の下痢は、乳幼児ならアレルギーや乳糖不耐症、代謝の病気などがあります。学童以降は、過敏性腸症候群も考えます。年齢によってさまざまな原因が考えられます。離乳食開始直後に便性がゆるくなり頻回になることもあります。繊維質に慣れていないためです。しばらくおかゆなどだけで様子をみて、便性が戻ったら、繊維質を含むイモ類・野菜類は少量ずつから再開します。
胃腸炎による急性の下痢…嘔吐がなければ哺乳は続けて大丈夫です。ミルクも薄める必要はありません。哺乳ごとに水様性の下痢をするような状態であれば、脱水になりやすいので受診が必要です。このようなときには、いっとき哺乳を休むことで回復が早まりますが、哺乳や食事をとめるのは長くても2日間です。それ以上だと腸粘膜の回復が遅れて哺乳すると下痢する状態が長びくことがあります。食事をする年齢であれば、食事開始はおかゆなどからです。下痢どめの薬は通常は使用しません。特に2歳以下に使用すると腸閉塞などの危険がある下痢どめ薬もありますので、必ず医師の説明を十分に聞いてから処方薬を使用してください。
血便をともなう下痢…感染性腸炎(食中毒)の可能性がありますので、受診が必要です。血便の性状を診ることは診断に有用ですので、便(あるいはおむつ)を持参するとよいでしょう。新生児ではミルクアレルギーで血便が出る場合があります。
■便秘
排便には個人差があります。2日に1回でも元気で問題がなければ、便秘とはいいません。排便がなくて腹部が膨満していたり、食欲が低下したり、腹痛があったり、排便時に痛かったり、肛門が切れたりするようなら治療の必要があります。
乳幼児ではがんこな便秘は先天性の大腸の病気であることもありますので、受診が必要です。幼児期以降では、生活習慣を見直すことで改善することもあります。脳性まひなどの運動機能の異常がある場合には便秘になりがちですので、必要に応じて緩下(かんげ)薬が処方されます。市販の浣腸剤をくり返し使用するのはよくありません。腸への刺激の少ない吸収されない新しいタイプの緩下薬もありますので、慢性便秘の場合には医師に相談してください。
■腹痛
年齢を問わず多いうったえですが、原因は年齢によってさまざまです。急性胃腸炎はどの年齢でももっとも多い原因ですが、乳幼児では腸重積が要注意です。突然不機嫌になり大泣きする、蒼白(そうはく)になるなどをくり返しているならその可能性があり、受診が必要です。子どもの虫垂炎は低年齢ほど穿孔(せんこう:孔〈あな〉があくこと)を起こしやすいので、強い腹痛が持続する場合、持続する腹痛がだんだん強くなる場合、嘔吐がある場合には受診が必要です。「おなかがいたい」といううったえでも幼児では腹部疾患ではないこともありますので、正確な診断が必要です。重症感がなくて「おなかがいたい」という短時間のうったえがくり返される場合には、心理的要因のこともあります。学童期以降では、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、胃潰瘍などもありえますので、くり返しうったえがある場合には受診が必要です。
■おなかがふくらんでいる
乳幼児期に多いうったえです。お風呂に入ったときに気づいたりします。強い便秘による場合もありますが、おなかの中に腫瘍があることもあります。日ごろ、おなかがやわらかい哺乳や食事前の時間に、おなかをまんべんなく軽く押して正常なときの感じを知っておくことは役に立ちます。いつさわっても硬く触れるような感じがしているときは受診が必要です。
■発疹
感染症…小児期には発疹(ほっしん)を伴う感染症が多数あります。麻疹(ましん:はしか)、風疹、水痘(すいとう:水ぼうそう)、手足口病、突発性発疹、溶連菌感染症などです。発熱を伴う場合には、まれに脳炎、髄膜炎や肺炎などの重篤な合併症を生じる感染症もありますし、登園や登校を休む必要がある感染症もありますので、受診が必要です。
発疹だけのとき…抗菌薬や解熱薬などの薬を服用したあとに顔、くび、前胸部などに発疹が出た場合には薬疹の可能性もありますので、受診したほうがよいでしょう。出たり消えたりをくり返す場合にはアトピー性皮膚炎、湿疹(しっしん)、じんましんなどがありえます。かくことでひどくなる場合がありますので、かゆみが強い場合は受診して悪化を防ぎます。特定の食物を食べたあとに出るじんましんは食物アレルギーが疑われますので受診が必要です。露出している腕などの一部にだけかゆい発疹が出た場合には、外部のなにかに触れたことによる接触性皮膚炎が考えられます。
■せき
発熱もなく軽度のせきだけであれば、急性咽頭炎の可能性があります。ようすをみていてもけっこうですが、発熱を伴い元気がない場合には受診してください。夜もせきで眠れない場合には肺炎の可能性があります。乳児は鼻炎を伴うと鼻づまりで呼吸が苦しくなりますから、哺乳量が減った場合には受診が必要です。食事中や遊んでいるときに急にむせ込んでその後ゼーゼーしている場合は、気道に物が入った可能性がありますので、すぐに受診が必要です。コオーンコオーンという犬の遠吠えのようなせきは百日せきのこともありますから、つらそうなときや、哺乳量、摂食量が減っているときは受診してください。子どもではせきどめは通常処方せず、去痰(きょたん)薬が適しています。
■喘鳴(呼吸ごとにゼーゼーすること)
出生直後からゼーゼーした呼吸をしているとき…先天性喘鳴(ぜんめい)といって、筋力が弱い場合、下あごが小さくて気道が狭い場合など、さまざまな原因で生じます。原因をあきらかにする必要がありますが、多くの場合は成長とともに軽快していきます。
息を吸うときにゼーゼー、ヒューヒューするとき…クループ症候群といってのどの奥(喉頭)が感染で狭くなってしまった際に生じます。重度では窒息状態になってしまうために、すぐに受診が必要です。
息を吐くときにゼーゼー、ヒューヒューするとき…乳児ではRSウイルス感染で細気管支炎になったとき、急性気管支炎の中等度以上のとき(ぜんそく様気管支炎)、年齢を問わず、気管支ぜんそく発作のときにみられます。それぞれの病態で治療が異なります。子どものいる家庭ではたばこの煙は脳の発達にも呼吸器にも有害です。
■けいれん
熱性けいれん…主として6カ月から60カ月(5歳)の間に起きる38℃以上の発熱時のけいれんを指します。通常は2分以内でおさまりますが、時に5分以上続くことがあります。熱性けいれんだけでは脳に悪影響は残しませんので、慌てずに嘔吐(おうと)物でのどをつまらせないように顔を軽く横に向けてようすを観察してください。短時間でもくり返し生じる場合やけいれんが5分以上持続する場合には、脳炎脳症の鑑別が必要ですので受診してください。熱性けいれんと診断されていて、坐薬も処方されている場合には、その指示通りにしてください。24時間以内に2回以上、20分以上のけいれん、体温が37.5℃から38℃未満でのけいれん、6歳以上の熱性けいれんはその後の経過を医師がフォローする必要があります。
発熱のないけいれん…てんかん発作の可能性がありますから検査が必要です。
胃腸炎症状に伴うけいれん…軽症胃腸炎に伴うけいれんは、1~2歳児に特有の病態で、短いけいれん発作が群発しておどろかされます。適切な治療薬で治癒し、てんかんとは関係のない病態です。
■意識障害
呼吸をしていないようだったら…子どもは心臓からよりも呼吸からとまることが多いので、まず呼吸を確認し、呼吸をしていない、あるいは浅いようなら、心臓マッサージを開始します。救急車が来るまで心臓マッサージと人工呼吸を続けます。
発熱があったら…高熱でもうろうとする熱せん妄もありますが、脳炎・脳症、髄膜炎の可能性もありますので、ただちに受診が必要です。インフルエンザにかかって高熱のときには、突然走り出したり、高い所から飛び降りたりする異常行動がみられることがあるので、最低2日間は外に飛び出せない場所で寝かせるなど十分注意する必要があります。
けいれん後だったら…けいれん発作のあとの睡眠状態か異常な意識障害かは見分けがつきにくいのですが、顔いろが良く、熱もなく呼吸もいつものようであれば様子をみてもいいでしょう。ただし、翌日は必ず受診して診断と治療の方針を相談してください。
立っているときに倒れたら…学童期以降なら起立性調節障害の可能性があります。急な血圧低下で意識がなくなる状態です。くり返すようなら検査が必要です。過度に緊張したあと、腹痛や転んで痛みがあった直後、など一定の状況下で突然倒れて意識を失い、短時間で意識が戻ることがくり返される場合は、神経調節性失神の可能性があります。
胸にボールなどが当たった直後だったら…ボールなどが胸に当たった直後に意識を失って倒れたら心臓振とう(心室細動)を考えます。心臓が血液を送り出せなくなる重大な不整脈で、誰にでも起こりえます。救急車を呼びAEDを探し使用します。
炎天下だったら…熱中症が考えられます。救急車が来るまでは日陰に移し、あらゆる手段で体温低下につとめます。
(執筆・監修:自治医科大学 名誉教授 桃井 眞里子)