炭疽〔たんそ〕

 炭疽菌による人獣共通感染症です。
 炭疽菌は、土壌などの環境中で芽胞(がほう:細胞内にある胞子に似た球状の構造体)として長期間生存し、草食動物(ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマなど)に感染します。芽胞が生体内に侵入すると発芽し、栄養型として体内で急速に増殖し、炭疽を発病します。
 人および動物の炭疽の発生は開発途上国や獣医衛生が立ち後れている国に多く、発生数は人では年間2万人、動物では年間100万頭に達すると推定されています。先進国でみられる炭疽は、動物組織の処理過程での曝露(ばくろ)による発生が多いようです。先進国では、家畜衛生などの対策により動物の炭疽発生はきわめて少なくなって いますが、近年、生物テロに使用される可能性のある病原体として注目されています。
 炭疽の症状は、炭疽菌が産生する毒素によるものです。人の病型は伝播(でんぱ)様式によって皮膚炭疽(経皮感染)、肺炭疽(吸入感染)、腸炭疽(経口感染)の3種に分けられます。
 人では皮膚の傷口に感染する皮膚炭疽が多く(95%)、虫さされのあとや大量の羊毛を扱ったときなどに皮膚から入り、まず、かゆい発疹(ほっしん)ができます。数日で水疱(すいほう)や膿疱(のうほう)になり、一部潰瘍ができると中央に黒いかさぶた(痂皮〈かひ:かさぶた〉)をつくり、周囲はかたくはれ、2~3週間で大部分が治ります。皮膚は痛くなりませんが、リンパ節がはれると痛みます。熱が出ると全身にひろがり重症におちいります。
 炭疽菌を吸い込むと肺炭疽になり、胸腔(きょうくう)に出血性の炎症を起こし発熱します。全身にひろがり、敗血症(血中に菌が入って増殖する)になり、1~2日で呼吸困難やショックが起こり、生命にかかわる重病です。
 そのほかごくまれに、感染した食べ物を食べて腸炭疽にかかることもあります。扁桃(へんとう)炎のようにのどの痛みと発熱で始まりますが、下痢や血便が出て致命的な重病となります。
 ペニシリンGの注射で菌を抑えることができますが、菌の毒素は残るので重い場合は効果が不十分です。注射の代わりにシプロフロキサシンやエリスロマイシンを服用し、同時に抗毒素を用います。
 パスツール博士が弱毒生菌ワクチンをつくったことが有名で、動物には生ワクチンが用いられますが、人用の不活化ワクチンは国内未承認です。

(執筆・監修:熊本大学大学院生命科学研究部 客員教授/東京医科大学微生物学分野 兼任教授 岩田 敏)
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