侵襲性髄膜炎菌感染症〔しんしゅうせいずいまくえんきんかんせんしょう〕 家庭の医学

 髄膜炎菌(Neisseria meningitides)は、健常者の咽頭にも常在していることがあります(国内では5%以下)。この場合は感染症を起こしていない状態ですが、この菌が血管内や髄腔(くう)内などの通常は無菌の部位に侵入し、菌血(きんけつ)症・敗血症髄膜炎などをひき起こした場合を侵襲性髄膜炎菌感染症といいます。
 日本では、海外の国とくらべて髄膜炎菌の保菌率が低く、侵襲性髄膜炎菌感染症の発生頻度も高くはありませんが、毎年20~40例ほどが報告されており、集団生活の場やマスギャザリング(一定期間、限定された地域において、同一目的で集合した多人数の集団)における発生が問題となっています。世界的にどの国でも、髄膜炎菌は細菌性髄膜炎の主要な原因菌となっています。
 飛沫(ひまつ)感染により感染し、潜伏期は2~10日(平均4日)で、発症は突発的です。髄膜炎の場合は高熱と頭痛、嘔吐(おうと)、けいれん、意識障害など、菌血症・敗血症では発熱、悪寒(おかん:さむけ)、虚脱などの症状を呈しますが、劇症となり点状や斑状出血をきたし、ショックにおちいることもあります。
 血液、髄液、他の無菌部位からの病原体もしくは病原体遺伝子の検出により、確定診断をします。
 すみやかに治療を開始する必要がありますので、高熱とともに頭痛や嘔吐がみられたら、すぐ医師の診察を受けることが大切です。治療には、主としてペニシリンもしくはペニシリンの仲間の抗菌薬(セファロスポリン系など)が使われます。また患者との濃厚接触者に対しては、抗菌薬による曝露(ばくろ)後の予防投与が推奨されています。
 予防には髄膜炎菌ワクチンの接種が有効です。寮などで集団生活をする場合や流行地に渡航する場合には、ワクチンの接種を考慮しましょう。

(執筆・監修:熊本大学大学院生命科学研究部 客員教授/東京医科大学微生物学分野 兼任教授 岩田 敏)
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