眠れない・眠りすぎ 家庭の医学

 ふつう、年齢とともに睡眠時間は短くなり、また眠りも浅く、目ざめやすくなります。睡眠時間には個人差もありますし、一般論として、日中に眠くなることなく、疲れすぎることもなく活動ができているならば、十分な睡眠がとれていると考えてよいでしょう。以前のように眠れていないからと、睡眠薬などに頼ろうとする人がいますが、多くは夜の寝つきがわるいという程度であり、病的な睡眠不足ではありません。
 睡眠薬は、使えば使うほど効果が弱くなり、量をふやしたり薬を強くしたりする悪循環におちいりがちです。寝つかれないときには、むりに眠ろうと努力しても逆効果で、ただ横になっているだけでよいと考えたほうが、かえって眠れる場合もあります。また、お茶やコーヒーなどカフェインのとりすぎや、寝る前の夜食など、寝つきをわるくするような原因がないかどうかも振り返ってみましょう。朝早く起きて日光を浴び、日中に外出したり運動したりするだけでも不眠が改善することがあるようです。

 病的な睡眠不足では、やせたり、食欲がなくなったり、頭がぼんやりしたりします。痛みや尿意、高血圧症、糖尿病など、からだの病気の結果として眠れない場合には、その原因に対する治療が必要です。
 心的外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder:PTSD)、統合失調症、躁(そう)うつ病などの精神疾患の初期には、ただ不眠だけが症状としてあらわれる場合があります。眠りが浅くて夢ばかりみる、目がさめても不快感が残る、眠ってもしだいに疲れがたまってやつれてくる、といった不眠症状がある場合には、精神科医に相談したほうがよいでしょう。
 また、眠りの質の低下といえる睡眠時無呼吸症候群では、文字どおり、睡眠中にくり返し呼吸がとまってしまうため、長く寝ているつもりでも休まっておらず、起きても疲労感があったり、日中に強い眠けにおそわれたりします。肥満の人がなりやすいといわれていますが、日本人では肥満でない人にも生じ、動脈硬化など生活習慣病のリスクとなります。自分で気づくのはむずかしいですが、周囲の人から無呼吸発作や習慣的ないびきを指摘された場合は、医療機関を受診して調べてもらうとよいでしょう。

 不眠とは反対に、眠りが深すぎたり、長かったりする人がいます。若いときには夜更かしをして朝起きることが苦痛になりやすいものですが、強く起こせばはっきり目をさますような眠りであれば心配ありません。どんなに刺激してもはっきり目をさまさないときは、意識の障害や、睡眠薬などによる中毒、脳炎などに注意しなければなりません。

■眠れない・眠りすぎ
症状病名そのほかの症状など
眠れない精神的な不眠ストレス
不安神経症めまい
心的外傷後ストレス障害(PTSD)不安感
統合失調症幻覚
躁うつ病早く目がさめる
高血圧症鼻出血、めまい、耳鳴り、頭痛、肩こり
腎臓の病気尿の回数や量が多い、食欲がない、むくみ、高血圧
心不全疲れやすい、血たん、むくみ、食欲がない、息切れ、冷え
前立腺肥大症頻尿、排尿時の痛み、尿もれ、尿が出にくい
糖尿病口渇、尿の回数や量が多い、尿の甘いにおい、夜間尿、全身倦怠感、やせ
眠りすぎ睡眠薬による中毒ふらふらするめまい、意識障害・失神
脳炎発熱、意識障害、吐き気・嘔吐、頭痛
眠りの質の低下睡眠時無呼吸症候群いびき、日中の眠け


(執筆・監修:公益財団法人 榊原記念財団附属 榊原記念病院 総合診療部 部長 細田 徹