吐き気・嘔吐 家庭の医学

 吐き気や嘔吐(おうと)は、胃や腸に原因がある場合には、腹痛を伴いやすく、もっとも多い原因は急性胃炎です。ブドウ球菌、病原性大腸菌、ノロウイルスなどの食中毒による急性腸炎も、腹痛を伴います。胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんでも起こりますが、特に胃がんが進み、胃の出口が狭くなった場合は、食べてしばらくしてから吐きます。食道がんで狭くなった場合は、飲み込みにくくなり、食べてすぐに吐きます。腸閉塞(イレウス)では、嘔吐が特徴的です。
 小児で噴水状の嘔吐がみられたら、まず幽門狭窄(ゆうもんきょうさく)が疑われます。また、幼児に起こる幽門けいれん、成人に起こる食道アカラシアでは、胃のけいれんで嘔吐をきたします。吐物による誤嚥や窒息を防ぐために、嘔吐している人を横向きに寝かせて、吐物を受ける容器や袋を用意します。

 胃腸以外の病気で、腹痛を伴う吐き気の原因としては、かぜ症候群、ウイルス肝炎、虫垂炎や急性腹膜炎、胆石症、胆嚢(たんのう)炎、急性膵(すい)炎、寄生虫感染症、赤痢、異所性妊娠(子宮外妊娠)などがあげられます。頭痛を伴う吐き気は、脳腫瘍や頭部外傷によって、頭蓋内圧亢進(とうがいないあつこうしん:脳がはれたりして頭の中の圧力が高くなること)が生じた場合にみられることがあります。
 痛みのない吐き気として有名なのは、妊娠悪阻(おそ:つわり)です。酒に酔ったときや中毒、薬物の副作用やメニエル病でも吐き気が生じます。また、脳血管障害でも、飲み込みがわるくなったり、嘔吐したりします。糖尿病が重症化した場合にも、吐き気や嘔吐を生じることがあります。

■吐き気・嘔吐
症状病名そのほかの症状など
腹痛あり急性胃炎上腹部痛、胸やけ、吐血
急性腸炎下痢
食中毒下痢
胃・十二指腸潰瘍食欲不振、上腹部痛、胸やけ、吐血、黒色便(血便)
胃がん食欲不振、体重減少、吐血、黒色便、胸やけ
腸閉塞(イレウス)下腹部痛、腹がはる、便秘、冷や汗
幽門狭窄噴水状の嘔吐
食道アカラシア膨満感、嚥下困難
感冒(かぜ症候群)発熱、頭痛、だるい、くしゃみ、鼻汁、のどの痛み、せき・たん
急性腹膜炎発熱、便秘、腹壁の緊張
急性虫垂炎右下腹部痛、押さえると痛む、発熱
胆石症黄疸、右上腹部痛、発作的な激痛(疝痛)
胆嚢炎右上腹部痛、発熱
急性膵炎発熱、背部痛、上腹部痛
赤痢下痢、下腹部痛、粘血便
異所性妊娠(子宮外妊娠)下腹部痛、不正出血、腰痛、破裂するとショック
小児の胃食道逆流ぜんそく発作、腹痛あり
頭痛あり脳腫瘍耳鳴り、片まひ、しびれ、けいれん
頭部外傷めまい、全身のけいれんや運動まひ、意識障害
くも膜下出血意識障害、けいれん、くびのうしろがかたくなる(項部硬直)
髄膜炎発熱、意識障害・失神
脳炎発熱、意識障害
急性扁桃炎発熱、のどの痛み、嚥下困難
急性中耳炎発熱、耳が痛む、耳だれ、耳閉感、めまい
尿毒症無尿、むくみ、息切れ
痛みなし妊娠悪阻(つわり)妊娠徴候、食欲不振、胸のつかえ感
急性肝炎食欲不振、黄疸、全身倦怠感
脳卒中意識障害、片側の顔面のまひ、便秘
メニエル病回転性のめまい、運動失調、耳鳴り、難聴
糖尿病性ケトアシドーシス口渇、倦怠感、果物のような口臭、腹痛、意識障害


(執筆・監修:公益財団法人 榊原記念財団附属 榊原記念病院 総合診療部 部長 細田 徹